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アルバイシンの丘
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論理を超えた愛
 あまり似合いそうにない愛に関する記事を書いた際に,あるエピソードを思い出した.なんかの縁だろうから思い出したついでに書いておくことにする.

 その時からもう40年近く経ってしまったのだが,多分高い確率で大学1年生の夏休みの帰省中の出来事である【注1】.私・パピヨンは警察のご厄介になった.



 その理由は喧嘩である.相手は地主さん.意味がよくわからんだろうから少し説明しておく.実家は借地であった.だから当然地主さんが存在している.その地主さんは田んぼを少しばかりつぶして,総勢10戸ほどの宅地に改造し,貸し出したわけである.
 それらはすぐに借り手がつき,うちの実家もその中の一つとして安っぽい家を建てて引っ越した.場所は最も便利のいい角地で80坪ほど.引っ越したのは別の記事にも書いたことがあるが高校1年の6月,だからおよそ4年を経過していたことになる.
 たった一つを除いては申し分なかった.しかし.その一つが大問題であった.それは地主さんの問題である.その地主さんは大酒飲みであった.おまけにラグビー選手のように良い体格をしていた.そして農業で鍛えた浅黒い精悍な顔つきをしていた.

 地主さんは借地人たちの所へよく上がりこんで,話をするのが好きだった.それも夕食で酒を飲んでその後である.恐らく,店子に対する大家の気安さだったのだろう.
 初めの頃はうちの親父も他の借地人もいい顔をして迎えていた.浅黒い顔に酒が混じるのだから何ともいえぬどす赤色になって大きな声で気持ちよくしゃべっていたのだ.もっと子供の頃に見たなら,鬼さんに見えたかもしれない.
 ところがところが,容易に想像がつくように,次第にみんな迷惑がるようになってきた.だって話は意味不明で長いし,ご馳走する酒もだんだん勿体無くなってくる.そしてうちの親父は特に酒が飲めない.盃1杯で真っ赤になるのだから【注2】.大酒のみの馬鹿話に付き合うのは苦痛だったはずだ.そういうことで借地人たち,特にうちの親父との仲がだんだん険悪になってきたのである.(^o^)/
 みんなが次第に上に招き入れなくなると,地主さんはあちこちの家に何かしら文句を言いにくるようになった.だから,引っ越して1年ほども経つとしょっちゅう怒鳴りあうような間柄になってきたのだ.
 ただ,ほかの人たちは直接には対抗せず,うまくはぐらかしたりしていた.ところが親父は身体は小さいのだが,気だけは物凄く強い.怒鳴りあうのは主に親父であった.
(だから大学入学の為に家を離れる時はとても心配だった.弟が二人いたのだが,地主さん側にもちょうど弟二人と同い年の息子が二人いて,うーむ,戦争なったらちょっと分が悪いかなあ,なんて心配が消えなかったのである.)

 なんと,本題に入れずに延々と昔話が続いてる!まあ,いいか(^o^)/ ついでだからもう少し続けよう.おつきあいをよろしく.

 まあ,以上のようなOK牧場のクラントン一家を相手にするような状態であったことをご理解していただければよい.
 そして,運命の出来事.それも夜で8時ごろの出来事.私も当時は大酒飲みだったので,晩酌途中で気分のいい頃だ,地主さんが例の調子でやってきたのである.その時の文句の中身は無論わからない.ともかく非常に険悪な雰囲気になって,とうとう実力行使が始まったのである.
 相手は地主さん一人,こちらは私と末弟.(次弟は良識派だから馬鹿なことはしない.)とにかく,その時は一対二で戦った.私はなんとパンチを一発繰り出して,地主さんの顔面に当てたのである.人をパンチで殴ったのは後にも先にもその時一回きり.
 地主さんは鼻血を出していた.奥さんが来て「まあ,大変!」とおろおろされた.その時ホントに悪いことをしたな,と深く後悔した.その場はそれで一応収まった.

 その夜の後の行動だが,地主さんはどういうわけか別の借地人の家に行って,喚いていた.それで私は様子を見に行ったのである.するとさっきのことがあるので私の方に矛先が向いてきた.でもなんとか実力行使にならず,言い収めて私は戻り始めた.
 10メートルほど戻った時に突然後ろから悲鳴が聞こえた.『パピヨンちゃん!後ろ!うしろ!危ない!』
 私が振り返ると,地主さんが右手を大きく振り上げて私に向かって突進してくるのが見えた.何か右手に持っていたと思う.私は今でもよく体が動いたなあと思うのだが,突進してくる巨体を私はなんと組み伏せていたのである.
 私の体格は地主さんよりもだいぶ見劣りがする.地主さんとすれば,さっきは二人だったから負けた,今は一人だからひねりつぶせると思ったのかもしれない.
 でも多分,パピヨンは巨体を相撲で投げ(内掛けかもしれん(^o^)/),レスリングで組み伏せたのである.気が付いたら相手をマウンティングしていた.そして胸元をぎゅーぎゅー押さえつけて,この後どうしたものか,と思案に暮れていた.
 その時,またしても声が聞こえた,『もうせんと(もうしないで)!やめて!』という声が.その声でハッと我に返り,そのまま立ち上がってうちに戻ったのである.その後を巨体が追いかけてくることはなかった.
 家に戻ってしばらくすると,警察がやってきた.いろいろ事情を聞かれ,明日,署のほうへ出頭するように,と言われた.

 ふうーやっと前置きの物語が済んだ.さて警察での話.私は取調室でいろいろ事情を聞かれた.みんなの証言で,正当防衛的な行為だと看做され,雰囲気は全然悪くなかった.一応,説教らしきものは,『せっかく大学に入って,喧嘩で重大なことになったらどうする』というようなことであった.私は神妙に,そうですねぇ,済みません,というようなことを言ったのだろうか.そして,最後に,『ここに指紋を採らせてください』と言われた.
 私は何の問題も感じずに,はい,といって,右手の5本の指の指紋を取らせたのである.それで無事放免,ほっとして待っていた母の所に戻った,そして報告のつもりで,『大したことは言われなかった』ということと,最後に『五本指の指紋を取られた』ということも伝えた.

 母の顔色が変わったのはその時である.『なんて?!』母はキッとなっていきなり警察署の方へ戻り始めた.そして,先ほどの事情聴取した警官を見つけるや,猛然と抗議を始めたのである.

 『なんでうちの息子の指紋まで取らんばですか!まぁるで犯罪者のごと!みんなから聞いたでしょうが!なんで喧嘩になったか!』

 私はその剣幕に驚いておろおろしていた.そして警官も.『まあ,形式上必要なことですから』というような答だったろうか.母はいつまでもぷんぷんしていた.私は帰宅する間中,心の中で『へえ,指紋取られるのは犯罪者並みなんだよなぁ,そうか』とか『へえ,俺のためなら何でも言ってくれるんだなぁ』とか思っていた.(その当時は私はとっくに母離れができていたけど,母は未だに子離れができていないのだけど)

 ようやくこの記事で言いたいところまでたどり着いた.この時の母の剣幕は
 『息子を守るためだったら何でもする!』
ということだろう.これをさらに進めていけば,あの秋葉原での大量殺傷事件だって,たとえ現行犯で捕まったとしても
 『うちの息子は絶対にやっていない!』

と言い張り,叫んでいるのではないだろうか.
 そういうものを『愛』と呼んでいいものなのかどうかわからないが,少なくとも主観的には『愛』そのものとなっているのだろう.つまり,この記事で言いたいのはそういうカテゴリーの『愛』も存在する,ということだったのである.
 そういう類の愛をここでは『論理を超えた愛』と名づけたのであった.(何と長い回り道!)

 このカテゴリーの『愛』には他にどんなものがあるだろうか.一つはミーちゃんの子猫に対する『愛』である.そちらの記事を読んでいただくとお判りだと思うが,劇的な子離れをするまではミーちゃんはそれはそれは子猫を大事にしていた.それは決して『好ましい反応』が還ってくるのを期待してのことではないと思う.だって子猫たちは勝手に遊んで勝手におっぱいを飲みに来て,勝手にママにじゃれ付くのであるから.
 ミーちゃんはそういう反応がとてもいとおしかったのであろうか.だとすれば突然子離れが訪れる,というのがちょっと理解できないのだ.だからまあ,ここには論理を超えた愛があるのではないだろうか,と思うわけである.

 もう一つ,思い当たるものがある.生まれたての赤ん坊である.我々父親は生まれたてのしわくちゃなサルのような赤ん坊は全然可愛いと思わない(と一般化してはいけないネ(^o^)/.私だけがそうだっただけの話かも知れぬ).しかし,母親はそういうしわくちゃサルでもこよなくいとおしいようである.この母親の愛も論理を超えた愛にならないだろうか.

 この記事は長い割りに言ってることが外れているかもしれない.まあ,気軽に考えてください.

 あの地主さんも親父も,とうにいない.地主さんの方が親父よりもだいぶ前に死んだ.両親は地主さんの葬式の時,やはり胸が詰まったそうである.自らももう若くなくなり,争いは超克されたのだろう.
 奥さんはまだ健在だけどほとんどヨボヨボである.同じくヨボヨボになりかけの母とはいま何のわだかまりもないみたい.

 思えばもう一度戻りたい,若い両親がいる,若いみんながいる,若いパピヨンがいる・・とても懐かしい・・・あの頃・・・

【注1】 夏休みの帰省に際して,『たくさん本を読むぞぉ!』と固く決心して,下宿先から大量の本や勉強道具をダンボールに詰めてチッキで実家へ送ったものだ.しかし,たいていは,夏休みの最後あたりに,一度も開けられることのなかった荷造りのまんまのダンボールが,そのまま下宿先へ送り返されることになった.

【注2】 親父は盃一杯以上飲めば真っ赤になって,はあはあきつそうにあえぐようになる.それでも毎晩,盃一杯は欠かさないのだった.だからホントの酒好きかもしれない,と周りでよく言っていた.パピヨンは親父とは全く逆になってしまった.
by papillon9999 | 2008-06-28 21:22 | Comments(7)
Commented by 愚樵 at 2008-06-29 18:01
papillonさん、お久しぶりです。「愛」の物語、大変面白く拝見しました(笑)。

ま、どこの世界でも母親の愛は理屈を超えています。いえ、超えているとワタクシ愚樵は思います。正確に言明しておきませんとね、いろいろと難しいこともありますのでね、昨今は(笑)。

それにしても、今の母親たちは、やっぱり警察に怒鳴り込むんでしょうか? 学校には怒鳴り込むそうですが。ここ、疑問を感じます。どうでしょう?
Commented by papillon9999 at 2008-06-29 18:58
愚樵さん,どうも最近はご無沙汰しています.いろいろ世の中複雑ですからね(^o^)/~~~~

ところで,そうですね.一歩間違うと母の行動は最近のモンスター母親みたいな行動と見られかねませんね.今気が付きました.

母の行動は断じてそれとは違うものだと訴えたい!(^o^)/~~~~
もちろん,昨今のモンスターは言語道断ですよ!!!

パピヨンだって母には箒持って追いかけられたりしたんですから.(でも両親とも体罰は決してしませんでしたけど)

そうか,今度はモンスター親の心性を明らかにして,母の無実を確認しなければ・・・(^o^)/~~~~
Commented by 愚樵 at 2008-06-30 05:57
>母の行動は断じてそれとは違うものだと訴えたい!(^o^)/~~~~

それも愛です、papillonさんの愛。 ここから繰り出される論理は、愛を証明するためのもの。すなわち、愛の僕(しもべ)だぁ~(笑)。

ま、それでもモンスター愛とpillion母上の愛とは、性質が異なっていそうです。愛の論考、続編に期待しています。
Commented by papillon9999 at 2008-06-30 11:13
愚樵さん,ちょっと違うのは『それも愛です、papillonさんの愛』の所.
これは個人的な愛とは違っています.モンスターとは全然違うという一般的なものです.
モンスターとは,愚樵さんが危惧されるような『市民が権利を主張することの弊害』などではありませんよ.(^o^)/^^^^^^^トンデモの部類に属することです.
Commented by Ladybird at 2008-07-01 19:04
 感動しました.papillon さんの母上の揺るぎない人権意識.それに勇気.相手は合法的に暴力を使える人たちですよ.すごい.
 モンスター親は力関係に敏感です.力関係を計算に入れて苦情を言い立てる.子供はじょうずに親を使うことと,力関係を利用することを学ぶ.こうして親にもましてダメな子供が育つ...
 外見は似ているかもしれないけれど,papillonさんの母上とモンスター親とは,全く質が違っています.
Commented by papillon9999 at 2008-07-02 08:49
Ladybird さん,どうも『感動』までしていただいてありがとうございます.母はそういう意識がまったくないまま,ホントの自然のままにああいう行動を取ったのですよね.人権意識が特に高い,というわけでもないのですけどね.ただ,選挙は一貫して社会党だったのですが.
今は小泉・竹中の置き土産である老人福祉切捨てを憤っています.
竹中の復権,『そりゃあないぜ!』でしょう.朝日新聞とテレビ朝日が復権させようとしています.言語道断!(関係のない話になりました(^o^)/)
Commented at 2008-07-02 18:11
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