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震災瓦礫広域処理問題の本質(5)
2012年 05月 18日
震災瓦礫広域処理問題の本質(4) 2012年 05月 11日の続編
(5)-2 環境省による安全基準の専行 前報で推断した,環境省の作戦とは,実質的な「放射性廃棄物」を「放射能がたまたまくっついた災害廃棄物(正確には,放射性物質に汚染された災害廃棄物)」と言い換えることであった。そのように言い換えた後,ではその放射能の安全問題をどのようにクリアしたつもりなのか,それを見るにはまず次のサイトがよいと思う。 ・広域処理情報サイト よくあるご質問(強調はパピヨン) この中の終わりの方,Q21に次のように書いてある(なんだか,番号が前と違っているみたい。Q16だったような・・・) Q21 8,000ベクレル/kgという基準以外に、100ベクレル/kgという基準もあると聞きました。違いについて教えてください。 A21 8,000ベクレル/kgは「廃棄物を安全に処理するための基準」であり、100ベクレル/kgは「廃棄物を安全に再利用できる基準」です。 8000ベクレル/kgという基準は、埋立終了後に処分場の周辺にお住まいの方が受ける年間放射線量が0.01ミリシーベルト/年以下になり、かつ、災害廃棄物の処理・処分において、最も被ばくすると想定される人(廃棄物の埋立処分などに従事する作業員が年間1000時間作業した場合)でも、その年間被ばく線量が、一般公衆の線量限度である1ミリシーベルト以下になるように設定された数値です。 100ベクレル/kgという基準は、災害廃棄物を再利用した場合、その製品などによる年間被ばく線量が0.01ミリシーベルト/年以下になるように設定された数値です。 ここに,いくつかの安全基準に関する考え方が書かれている。まとめると, 1.100ベクレル/kgは「廃棄物を安全に再利用できる基準」であること 2.8,000ベクレル/kgは「廃棄物を安全に処理するための基準」であること 3.1の基準は再利用した場合の年間被曝量が0.01ミリシーベルト以下になるように設定された数値であること 4.2の基準は埋め立て後,周辺の住民の年間被曝量が0.01ミリシーベルト以下になるように,かつ,作業員が年間1000時間作業した場合などでも、その年間被ばく線量が1ミリシーベルト以下になるように設定された数値であること これらの法的根拠は次の”省令”と”告示”に拠っていると思われる。 放射性物質汚染対処特措法施行規則 平成23年12月14日 の第14条,および 告示 平成24年4月17日 の3/7ページである。そして,その基となる考え方が,次のガイドラインに書かれている。 災害廃棄物の広域処理推進について(ガイドライン)平成23年8月11日 3/69ページに「再生利用におけるクリアランスレベルの考え方」,6/69ページに「8,000Bq/kgの設定の考え方」などである。 このうち,100ベクレル/kg以下をクリアランスレベルとすることは,従来の基準と整合して【注1】おり,従来の基準の問題点は別として,それを踏襲しても許されるだろう。 ところが,8,000Bq/kgの基準は非常に問題がある。この基準は多分,この環境省スキームで新たに現れたものである。そのことは,上掲ガイドラインの6ページを見ればわかる。そこには次のように書いてある。 (8,000Bq/kgは)検討会において、原子力安全委員会が6月3日に定めた「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の影響を受けた廃棄物の処理処分等に関する安全確保の当面の考え方」に示された次の目安を満足するよう適切な処理方法を検討した結果、埋立処分の際の目安として示された焼却灰等の濃度。 なかなか複雑なお役所的悪文と言うべきだが,肝心なことは,下線部に関して「検討した者」は誰か,「示した者」は誰か,ということである。わかりにくいが,素直に読めば,『原子力安全委員会が定めた考え方に示された目安』を基に環境省が「目安として」決めた,と言うように読み取れるだろう。 そして,この目安として決めたガイドラインに従って,上掲の省令(と告示)でオーソライズされているようなのである。告示の日付は1年の仮置場への集積が終わって,いよいよ広域焼却を始める,というタイミングと一致する。 さて,ようやくパピヨンが文句をつけたい箇所に差し掛かってきた。8,000Bq/kgとはその基準で広域焼却処理を正当化する重要な基準である。そのような重要な基準を一片のガイドラインのみに依拠していいのか!と言いたいのである。 当然,原子力安全委員会のような正式の機関で基準は作るべきではないか。たとえいくらそれが御用機関であろうと,それなりの責任を負う体制でやってきたのだから。 【注1】に書いたように,放射能管理についても省庁ごとの縄張りがあるようだが,それからするとこの8,000Bq/kgは環境省の縄張りと思われる。ところがこのことについても興味深い事実を見つけた。次の規則である。 フォールアウトによる原子力施設における資材等の安全規制上の取扱いについて これは原子力安全保安院の書き物であるが,5/25ページの下の方に8.000Bqのことが次のように書かれている。 放射性物質汚染対処特措法施行規則第14条(上掲)により指定廃棄物となる基準として、放射性セシウム濃度(Cs-134とCs-137の合計値)8,000Bq/kgが示された これを逆に言えば,8.000Bqに関する推測が当たっていたことになる。とにかく,経産省は原子炉敷地内のことだけ,敷地外の『放射性廃棄物』はすべて環境省にお任せ,なのである。 大事なことは,今後もまた生じるかもしれない放射能による広範な汚染に対しても安全に処理できる普遍的なものでなければ困る。特に広域処理を押し付けるのだから。だけど,その根拠がこの『ガイドライン』しかないのであれば,それは今回限りのものでしかなく,そこにある基準は普遍性が無く実に心許ないものである。 なぜこのような細かいことを言うのかと言えば,原子炉等規制法(など)に基づく『放射性廃棄物』に関する処理は,非常に細かく基準作りが為されているからだ。反原発派からするとそれだって不十分かもしれないが,それよりもさらに安全性が危惧される方向で無視されるのはとても容認できるものではない。 念のために強調しておくが,ここでの話は,現実にどの程度安全を脅かすのかということとは別の(安全かどうかの考察は次号の予定),基準に対する姿勢のことを問題にしているのである。環境省の言い訳は,”IAEAも大丈夫と言った”(7ページの上の方)として安全を担保したという理屈であるが,そういうことでは一体だれが安全に対して責任を持つのかという点があいまいになる。そういう,法システムの話をしているのである。 そしてもう一つの重大な問題点は,従来の安全基準には焼却に関する基準,安全に放射性廃棄物を焼却する標準的な手順,が無い点である(すべての法を確認できるわけはないので,保証できることではないが)。従来の基準にも,焼却で減容するという考えはあると思うが,従来の基準は事故ではなく,解体とか修理とかを想定したものだから,焼却と言ったってごく小規模のものと思われる。 つまり,今回のような大規模な広域焼却に関して,環境省は独自の手順を(勝手に)作り上げたのである。あのような素朴なアイデア(バグフィルターなど)で安全が確保できるのか,大きな疑問がある。ということで,次回は本当に安全が確保できるのか,という話になる。 念のため,従来の原子力安全規制に関するものを挙げておこう。(眼についたものを適当に並べる) 低レベル放射性廃棄物安全研究について 放射性廃棄物埋設施設の安全審査の基本的考え方 この中に『原子炉施設の運転等に伴って発生する低レベル放射性固体廃棄物のうち』などとあるから,原子炉施設と関係ない災害物は対象外となるのであろう。 原子力災害対策特別措置法 廃棄事業の安全規制 【付録】よくあるご質問より Q9 広域処理されるがれきについての、安全性の基準値は? A9 安全に処分できる基準値として、8,000ベクレル/kgという値を定めています。 8,000ベクレル/kgは、廃棄物を安全に処分するために法律で定められた基準値で、放射性セシウム濃度がこれ以下であれば一般廃棄物と同様の埋立処分ができます。この値はIAEA(国際原子力機関:International Atomic Energy Agency)も認めているもので、埋立処分場で作業する人であっても年間の追加被ばく線量が1ミリシーベルト/年以下になります(1000時間労働を想定)。 廃棄物を燃焼すると放射性セシウムは灰に濃縮されます。この灰が埋立処分できる基準値の8,000ベクレル/kgを確実に下回るように、広域処理の対象となる可燃物の受入基準値も定められています。可燃物の基準値は、焼却する炉の種類によって放射性物質の濃縮率※が異なるため2種類あり、ストーカ炉で焼却する場合は240ベクレル/kg、流動床炉で焼却する場合は480ベクレル/kgです。この基準値をこえなければ、焼却して放射性セシウムが灰に濃縮されても8,000ベクレル/kgを下回るように設定されています。 下線部のようなことを何気なく書いているが,『廃棄物を安全に処分するために法律で定められた基準値』などを読むと,すごく権威を持った基準のように思えてしまう。だが実情は上述の如しなのだ。 いやあ,こんな内容の記事を書いていたら,ちっともアップできない!(泣く) 【注1】 我が国だけの問題なのかどうかわからないが,クリアランス制度自体でも,文部省と経済産業省でそれぞれ別個に設定しているようなのである。つまり,文部省は大学研究機関等の原子炉を想定し,経産省は商業用原発を想定していて,それぞれの縄張りの中だけの基準とみなしている。 その基準値自体は両方同じで矛盾がないように決めるのであろうが,印象がこれまでと大きく異なる違和感が湧き出てしまう。”原子力の安全に関するものはすべて原子力安全委員会が判断するもの”だと思っていたのである。でもどうもそうではないらしい。原子力安全委員会は単に原発に関してしか,権限は何もないようである(参考にしないわけではないし,矛盾した基準値を別に作るというわけではないようだが)。 だけど,原子力に関することは,これから廃炉に向けてすべて一元化するべきだろうと思う。原子力規制庁のようなものは災害廃棄物にも責任を持つようなものでないと意味が薄れる。
by papillon9999
| 2012-05-18 19:18
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Comments(5)
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at 2012-05-19 23:41
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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磐梯朝日国立公園
at 2012-05-20 11:15
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原子炉内で放射性物質がフォールアウト
したものは経産省、原子炉内のものが 吹っ飛んで原子炉外にでたものも 経産省の縄張りのようです。 しかし大量のがれきは経産省が チェックするのではなく、環境省が縄張りと なって勝手に決めるという構図ですね。 勉強させてもらって初めてわかりました。 処理量が大変多いので濃度だけ 基準に設定しても心配ではないのかと。
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at 2012-05-20 17:33
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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by
磐梯朝日国立公園
at 2012-05-21 08:24
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パピヨンさま、朝日新聞岩手支局長が
震災がれき 広域処理にこだわるな だそうです。 朝日新聞は広域処理推進の旗振り役 でしたから主張を修正し始めたのかと。 2012/5/19 オピニオン そもそも処理が必要なのは半分以下 など、パピヨンさんが指摘された通りの ことが書かれています。
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at 2012-05-21 21:34
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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