菅首相への意外な認識に驚く

　たんぽぽさんの記事，内閣不信任案否決（２）のコメント欄で，重大なことが進行しているのを知らされた。根本二郎さんと言う方のブログ記事とその中の東京新聞の記事に書いてあったことだが，不信任騒動は原発推進勢力の仕業という趣旨である。



いやあ，これはひどかった。記事だけではなくそこに集まるコメント群がすべて全く逆に行っている。これまで反原発を一言でも口にしなかった（だろう）人々が怒りの矛先を違う方向に向けているのだ。この構図はとても怖い。まず以って，菅支持派にだって大量の原発推進派が存在し，小沢系にだって大量の脱原発派が存在するのだからこの筋立ては全くおかしい【注１】。

　大体，政治家は科学の素人。多くの人が騙されたように，政治家だって原子力が夢のエネルギーだと素朴に信じ込んでしまうことは仕方のないことである。これまで原発政治を行ってきた自民党への怒りなら，「今まで俺たちを騙しやがって！」という意味の怒りをぶつけても当然である。しかし，政治家と言ってひとくくりにすることはできないはずだ。これまで原子力村とは無関係に，素朴に夢のエネルギーと信じて来た政治家も多かろう。
　今まで原発を素朴に信じたり疑問を抱かなかった普通の市民が，政治家をひとくくりにして糾弾する資格はあるのだろうか。特に反菅議員にも脱原発派は多かったのだから。そして東京新聞にだってそんな資格があるのか？東京電力とは一線を画して，原発への疑問をこれまで訴えてきたのだろうか？

　そもそも，菅さんが脱原発だ，ってどうして思えるのか不思議でたまらん。確かに浜岡は一旦は停めたし送発分離も口にした。自然エネルギーにも言及した。だけどその後何も進展がないではないか。一発ブチ上げただけである。これはどういう意味なのか。思い当たることがあるので少し推測してみよう。

　浜岡停止，送発分離，自然エネルギーなど脱原発的なことを口にしたのは単純な理由によると思う。それは小耳にはさんだ知識を自分への注目を惹くために（要するに人気取り）単に口にしたのに過ぎないとみる。これは当然ながら，言わないよりは言った方がよい。さらにもしこれが本気ならば高く評価しよう。しかし，恐らくそうではない。本気度が全く感じられないからだ。邪推に基づくある場面を想像してみる。（斑目あたりなら言いそうな気がしない？）

　「総理，ホントは送発分離にすると発電への参入が増えて，電力供給能力の懸念は解消するんです。でもそれじゃあ，電力利権の旨みが無くなってしまいます。なので口が裂けても言わないでください！」その程度のことはレクチャーを受けただろう。しかし，この総理は不誠実な目立ちたがり屋さん。それを口にすれば俄然注目を集めることを知っているのだ。それで周囲もびっくりするように唐突に口に出てくる。しかし，これが一過性であることはその後の本気度【注２】でわかるのだ。

　それにもかかわらず，百歩かそれ以上譲って，今度は仮に菅さんが１００％，脱原発派だとして思考実験してみよう。もしそうだとすると，送発分離など口にしたことを貫徹できない何か大きな抵抗があることになる。ではそれは何だろう？小沢系議員なのか？冗談じゃない，彼らを無視して平気でマニフェストを壊しているんだから，その抵抗に遭っているのでは全くないはず。では自公の原発推進派か？これも全く違うだろう。衆議院の数もそうだが，今は堂々と原発推進を言えない雰囲気があるからだ。

　それでは一体何か？やはり残るは霞が関しかない。経産省，財務省，が主体の。すると菅さんは自分の信念は脱原発だが，裏で官僚に脅されてか知らないが，その信念を貫徹できない状況にあるという理屈になる。しかし，これには以下の非難を浴びせることができる。

　１．自分の信念がどうあろうと，結果は原発推進の望むとおりのことを行うこととなる。これは脱原発の意味がない。
　２．自分の信念を実現できなくても権力の座にしがみつく権力亡者であることの証明となる。
　３．それとも操られる振りをしてそのうち時期を見て反攻を窺っているのか？それはいろんな状況証拠によりあり得ん。そして何よりぐずぐずしている時間がないのだ。
　４．ぐずぐずしている間に，復興構想が官僚側の焼け太りとなって決定してしまう。官僚の思惑通り，膨大な箱モノが出来上がっていくだろう。阪神の時の繰り返しとなる。（神戸空港を見よ！）

ということで，菅さんが仮に１００％脱原発派であったとしても実質的に脱原発の仕事はできず，その他の重要事項も官僚の思い通りのことを許すことになる。脱原発派でないとすれば菅さん支持派の基盤が消滅することになる。いずれにしても不信任にふさわしい状況だったのだ【注３】。

【注１】　小沢系議員に関して，少なくとも不信任案に断固賛成して除名された松木議員は脱原発を明言，断言している。その他多くの議員がいるはずだ。逆に，菅さん支持サイドで脱原発は誰がいるのだろうか？おそらくいるだろうが，原発推進も多いはず。ということは不信任劇が原発推進対脱原発の闘いの構図ではなかったことになるのだ。

【注２】　本気度とはこのようなことである。もし菅さんが脱原発派であれば，脱原発派の議員を内閣に取り込むように画策しなければならない。不信任提出がそういうのに抵抗してのものだったら不信任劇は原発推進派のたくらみと言えるかもしれないが，事実は全くそうじゃないだろう。

【注３】　原発事故の初期の頃，２号機が真にやばい状態になった時，東電側から撤退したいと申し入れた（清水社長だったらしい）ことがあったそうだ。その時に，菅さんは「その時は東京電力は消滅すると思え！」と一喝したと伝わっている。当時これを聞いて，菅首相に感動したことは忘れない。そんなこともあったのに・・・
そして，不信任案不成立は菅さんが約束を守るならば正しい選択だったのだが・・・