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アルバイシンの丘
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随想や意見,俳句(もどき)

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万邦無比の国家(6)イデオロギー創造の苦悩
5.苦悩の始まり

 内閣の議会に対する優位性を主張する「超然主義」は,議会が民衆の側に立っていたことを意味する。たとえそれが議員のパフォーマンスっぽいものを含んでいたとしても,政府が軍備に予算を廻したい時に,民生・福祉に金を廻せという議会は非常に邪魔になったわけである。



 しかし,前回記事では議会側のこのような態度を過小評価したかもしれない。当時の議会,議員たちは,徳川幕府の超権威主義をようやく維新し,天皇の下,真に四民平等の理想社会を実現しようとしていたのかもしれない。この議会の真のスタンスはよくわからない。このあたりはもっと詳しく明らかにされるべきだろう。

 さて超然主義は何をもたらしたか。曲がりなりにも憲法で定められた議会主義が超然主義によって軽視されるとなると,何か強力な根拠が必要である。
 今日,誤解しやすいのは,当時の支配層,権力者たちは単純なご都合主義者だったように思い込むことである。実際には,今想像するよりもはるかに論理と大義名分を重視したようなのである。たとえば明治憲法の第4条,

 『天皇は国の元首にして統治権を総攬しこの憲法の条規に依りて之を行う』

が,天皇を憲法の拘束下に置いているかに見えることに対して,森有礼ら顧問官は非常な不満をぶつけた。これに対して,伊藤博文は

 『この条文が無ければ憲法とは言えない』

と言って退けたのだという。

 超然主義とは,政府を議会の上に置いた,政府>議会という権力構造にすることであるが,単純に考えれば如何に立憲主義とは言え「政府が天皇の代弁者である」というように強引にでも宣言してしまえば良かったはずである。
 しかしそうはしなかった。上に書いた憲法に対する姿勢が一貫して保たれ,何重もの正当性を裏付ける名分,大義を連ねていくのである。これにもその大義名分を探し求めたのである。これに関して,P48から引用してみよう。

 一旦施行された立憲制が,法則的に立憲制本来の政治体制=政党政治に接近しようとする傾向をもつことは拒み得ないことであった。それをあえてねじまげなくてはならないのである。それにはよほど強力なイデオロギー操作が必要であった。

 従って,今日においても明治皇国史観への批判は,相手が単純な図式から成り立っていると軽く考えてなしてはいけないのである。それは単純な根拠に基づく正当化理論ではないから,なんの反論にもなっていないことを知らねばならない。
 ともかく,明治の支配層,権力者たちは当時の全知性を懸けて,『立憲制でありながら天皇の絶対性を保持する』日本独自の理論構築に成功したのである【注1】。

 このようにして,超然主義への意図を契機として,新たなイデオロギー創造のための苦難の道が始まった。以下にそれを見ていこう。

6.憲法の意義づけ

 まず,行われたのは『憲法は日本国の本来あるべき姿を具現化したもの』という憲法自体の意味・意義づけであった。元々,日本国は君主と国民があり,その役割はその誕生時から定まっている,それを維新の大業を成しえた今,憲法によって具現化するのである,ということである。すなわち,

 「祖宗の遺業」を一系の血を媒介に今日に受け継ぐ天皇の超越的絶対性を言い,超然主義を合理化する

ことを目標に据えたのである。それは世界的に通用する普遍的な価値観を持った国であっては不可能であり,日本独自の世界に類のない特殊な国家を作り上げる必要があった。そしてそのためには古代以前にまでさかのぼる必要があったのである。
 かくして,『万邦無比の国家』建設へ歩み出すのである。

7.社会進化論

 この記事の冒頭に書いたように,明治初期からずっと四民平等という理想的社会を実現するための清新な気魄というものがあったわけで,その流れは初めに征韓論を退けることから大正デモクラシーまで,受け継がれたのではないかと思う。それはルソーの社会契約説・天賦人権論に基づいたものであったはずである。本には書いてはなかったが,中江兆民など,フランスからの人権思想の流入が大きな役割を果たしたと思われる。その理論を見てみよう(引用:パピヨン)

 「人民自ら承認したのでない法律は無効であって、断じて法律ではない」
 「人は本来自由なものとして生まれた。だが、至る所で鎖につながれている」
                                  ルソー著「社会契約論」より

 超然主義のためには当然,このような理論:天賦人権論,あるいは社会契約説を打ち破る必要があった。そしてその目的のために実に都合のよい思想が生み出されていたのである。それは,スペンサーの社会進化論と呼ばれるものの導入であった【注2】。そして,それを我が国において導入したのが帝国大学総長,加藤弘之であった。
 この加藤弘之の人権新説は社会進化論を基にしたものであり,当時の明治国家支配勢力は超然主義にとってまことに都合のよい理論を提供したのである。それは以下のように築き上げられた。今見ると恐るべきところもあるが,パピヨンの要約では以下のようになる。

 まず,国家というものは弱肉強食の世界で生き残っていくために団結と分業が必要である。そのため国家を構成する国民には優者だけいたのでは国家は成り立たない。なぜなら,捨て身の仕事を受け持つ人がいなくなるからである。すなわち,下働きの分業を受け持つ劣者が必ず必要となる。優者と劣者で国家を協力して担うのである。
 すると,そういう劣者は優者に指導される必要がある。しかし,そういう場合,優者は劣者に対して勝手な指導を行う危険性がある。そのために,優者を抑制する者が存在しなければならない。その,劣者に対して指導的立場に立つ優者をうまくコントロールする者,これが天皇の役割なのである。

 かくて,社会進化論は,それが国家論を取り込んだ時,多数の弱者の権利の擁護者であることを理由に君主の絶対性を証明する理論となったのである。(P53)

 こうして,明治政府は天皇の絶対性と立憲主義に基づく国民の人権を両立させることに成功したのであった。すなわち,超然主義を正当化することに成功したのである。なぜなら,天皇は憲法4条にかかわらず,超法規的な行動が取れることになるからである。

 ところが,まだ残る問題があった。それは,その理論はあまりにも見事すぎて,その理論は日本だけに当てはまることではなかったのである。超然主義を正当化することには成功を収めたと言えるものの,日本国を万邦無比の国家にする理屈とはまだなっていないのに気づかねばならない。
 なぜ超然主義を志向したかといえば,世界に打って出るためであり,それは当面,不平等条約の改正を認めさせるところから実現しなければならなかった。後述するように,そのためには万邦無比の国家になることが必要だったのである。

 そのために次に何を考えたのか。社会進化論はダーウィンを模擬した疑似生命体・有機体になぞらえたものであるが,その有機体アナロジーはもっと深いところまで威力を発揮する。有機体には遺伝子が存在するではないか。その遺伝子までアナロジーを広げようとしたのである。そこで,遠く古代以前からの遺伝子が必要になり,そのための物語が必要となるのである。それを次に見ていく。

【注1】 この過程は小路田の出色の研究・整理によって明らかになったものではないだろうか。これは小路田の業績として評価すべきだろうと思う。それにしても,その過程はイデオロギー創造にかかわる当時の最高の知性の苦悩でもあった。もっとほかのことに使われたなら,どんなによかったことであろう。

【注2】 スペンサーについては,板垣退助など自由民権運動家もいろいろ勉強したらしい。社会進化論という名であれば,その理論はいかようにも使えるものと思われる。
by papillon9999 | 2011-01-01 11:11 | Comments(2)
Commented by たんぽぽ at 2011-01-03 15:46
新年あけましておめでとうございます。
順番が逆になったけれど、きのうは早速、
わたしのブログにコメントをありがとうございます。

アルバイシンの丘さまのブログやコメントには、
負うところが多く、感謝しているしだいです。
とくに、官僚支配の実態について、
かなり見極められるようになったと思います。

これからもふつつかもののわたしに、
いろいろとご教授いただけたらと思います。
今年もよろしくお願いいたしますね。
Commented by papillon9999 at 2011-01-03 20:11
たんぽぽさん,これはこれは,ようこそおいで下さいました。

丁重なるご挨拶をいただき,誠に光栄に存じます。こちらこそ,皆さんの清新なコメントで感性を磨いているつもりでおります。
どうか今年もよろしくお願いいたします。