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アルバイシンの丘
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随想や意見,俳句(もどき)

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万邦無比の国家(3)邪馬台国は近代歴史学の道具
0。まえがき

 いやあ,何度も繰り返すけど,実に面白かった。なにしろ,邪馬台国問題などホントに小さな問題に思えてきたのだから。



万邦無比の国家(3)邪馬台国は近代歴史学の道具_f0036720_18143257.jpg
 「歴史学」という学問は,史実を紡ぐ学問であるはずなのに,どうして神話から始めることが可能なのか,どうして神話から始める歴史学が存在できた(る)のか,そこには実に深い考察が,たとえそれがいかに勝手な理屈の類であろうとも,濃縮されて詰まっていた,そういうことをこの本で”発見”したからである。

 そのようなものは「皇国史観」と呼んでもいいが,それは非科学的ということで一蹴することは簡単にできるものである。ところが,そのように簡単に一蹴しても実は何の意味もないことがパピヨンにはわかったのである。そんなことは相手も百も承知のことなのであった。
 周知のごとく,戦後の左翼はそのような高踏的な態度を取ってきた。荒唐無稽な神話入り歴史など,頭が正常に戻った戦後の社会ではもはや何ら通用するはずのないものとして,もはや危険を及ぼす命脈の絶えた「安全牌」として,まともに取り上げるまでもないとタカをくくってきたのである。

 しかしながら,それは日本人の心性,メンタリティが生み出したものであり,日本人の心に,「理屈」ではなく「情」で以って訴える力を持っている(これは一種の宗教的なものに似ているのではないだろうか)。従って,それは簡単に消滅するようなものではないはずである。それはゾンビのごとく何度も変異しながら復活するものであり,容易に日本人の心に再び入り込む可能性を内包しているのである【注0】。それはウィルスを想起させるが,変異して別の装いを以って蔓延する危険性を想定しなくてはならない。そのぐらいの心構えが必要な相手だ,と思うようになったのである。

 以上のような読後感をもたらしてくれた「歴史学論」を読者の皆さんと一緒に見ていこうと思う。そして最後に,この厄介なものを真に乗り越えるとはどういうことなのかを考えよう。
 なお,本の記述の編集や解釈はパピヨンが独自に行ったものであり,おかしい処があっても原著の責任ではなくパピヨンの責任である。また,直接の引用は青文字で書くことにする。

1.歴史とは何か

 初めに考察すべきはこれである。歴史とは何か? いろいろな出来事や社会の変遷が史実としてある。しかし,歴史とは史実の羅列ではない。史実をどのように紡いでいくのか,どのような意味を読み取るのか,そのようなものがなければ単なる年表に過ぎない。この本では史実を紡いでいったものを「物語」と呼んでいる。
 単なる年表では何の意味もないのは自明だ。著者は本の最後の章で次のような文章を書いている。(P184)

 歴史学は民主主義社会を築き上げていくのになくてはならない学問である。なぜならば,民主主義社会を築き上げていくためには,あらゆるレベルの官僚制的専門家集団に対して,一般の国民が優位に立たなくてはならないが,素人が玄人に対して優位に立つためには,常識と経験に頼るしかない。・・・・・
・・・・・・
それを体系化するための特別な知が,民主主義社会を維持・発展させていくためには必要になる。その特別な知が実は歴史学なのである。


 つまり,歴史の流れは一つの壮大な実験でもあろう。その実験結果は貴重なデータである。官僚制がいかに自己増殖に励むか,ファシズムはどのようにして起こった(る)かなどなど。国民は貴重な実験データから適切な体系化をはかり,今後に役立てなければ,官僚組織,独裁者,新自由主義,レイシズム,その他いろいろ,国民の幸せを奪うものから自らを守ることができない。こういうことを言いたいのであろう。その通りと思う。

 その一方で,また次のようにも言える。(P5)

 近代歴史学はナショナリズムを確立し強化するために意図的に作られた学問

 だから,史実をどのように紡ぐか,ということが本質的に重要であることは言うまでもない。この立場は最近,構成主義的歴史観【注1】と呼ばれるようになっているらしい。

 しかし,この立場にも客観性の度合いにいろんな濃淡の差があって,一方の果ては「自由主義史観」となる【注2】。これは史実を紡ぐのに完全に自由な主観に依る,という立場である。
 神話を歴史とすることができる立場とは,自由主義史観でなければできないはずだが,その中にあっても客観性を備えようと努力を重ねる立場も存在するのである。
 本の中ではこれら二つの立場はネーミングをされてなかったようであるが,この記事では前者を「主観的皇国史観」,後者を「客観的皇国史観」と呼ぶことにする。

 同じ皇国史観に立ちながら,これら二つの立場は実は大きな違いをもたらすのである。明治初期には実は客観的皇国史観の立場であった。ところが,この立場はうまくいかなかったのである。明治政府はある時から主観的皇国史観の立場に立った。そこから別の歩みが始まったのである【注3】。
 本ではこのあたりの変遷が非常に興味深く綴られていく。次回に詳しく紹介しよう。

 では,邪馬台国問題はどのような意味を持っていたのだろうか。実は,邪馬台国問題はそれぞれの皇国史観の立場を正当化する道具に過ぎなかったのである。つまり,みずからの皇国史観にとって,邪馬台国をどう使うか,どのように使えるのか,どのようにした方が最も都合がよいか,の争いだったのである。
 言い換えると,それぞれの物語対物語の闘いにおける証拠物件とするためであったのだ。しかし,一体。そんな古代のことがなぜ重要なのだろうか?そこにこそ,皇国史観の緻密な論理が要請する事情があるのである。それも次に見ていくことにする。

つづく

【注0】 すぐ思い出されるのが,森喜朗元総理の「神の国発言」である。このような「皇国史観派議員」は後を絶たないのであって,決して消滅しそうにないことは容易に納得できよう。
 それから,特に追記したいことに気がついた。次から次に続く自由主義史観の推進者たち。彼らは御用学者であるけれども,そういうのが入れ替わり立ち替わり現れるのは,自由主義史観の理論を継続・発展させるという役目をだれか果たす必要があるからである。
 そのポジションを占めることはお金になる
ので次から次に現れる。幸い,最近は三流の御用学者しか現れてないが,いつまた超一流の,平泉澄や白鳥庫吉や内藤湖南のような人材が現れるかもしれないのである。

【注1】 構成主義史観は今や左右を問わぬらしい。

【注2】 これまでパピヨンは,「自由主義史観」の自由とは,自虐から解放されて「自由」となりたいための歴史観の立場をいうのだと思っていた。本当は「自由」に物語として歴史を創作する立場だったのだネ。
 自虐から逃れるためには自由な創作が必要なので,結局は同じことになってしまうのだけど。

【注3】 この本の著者は何も言ってないが,尖閣諸島領有宣言や竹島の島根県編入などは,まさにこの流れの中にあったことがわかる。これについてもあとで触れなければならない。
by papillon9999 | 2010-12-16 23:15 | Comments(9)
Commented at 2010-12-17 14:54
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by たんぽぽ at 2010-12-18 12:14 x
>あらゆるレベルの官僚制的専門家集団に対して,
>一般の国民が優位に立たなくてはならないが,
>素人が玄人に対して優位に立つためには,
>常識と経験に頼るしかない。・・・・・

こんなことが書いてあるんですね。
意外なところ意外なものを見たかもしれないです。

「政治主導」というと、議会や官邸が、
官僚より優位に立つと理解されているようだけど、
同時に一般の国民が官僚より優位に立つことでもある、
というのが認識できている人は、
あまりいないように思います。

議会や官邸が一般国民の代表という意識が
あまり強くなくて、「政治主導とは
政治家が勝手にやってること」と思われている
気がしないでもないです。

さらには、官僚の手玉に乗せられた議論を、
平然と展開したりして、一般の国民が官僚より優位に
立てていると言えない状況もたくさんありますし。
Commented by papillon9999 at 2010-12-18 17:21
たんぽぽさん,これはまたいきなり決勝ホームランですっ!
そうです,そうです,政治主導とは国民主権の代名詞なんですよ。その言葉がなかなか出てこなくて,もどかしい思いをしていたんでした!
政治家が威張ってる,という感覚しかないんですね。

これまで国民は常に何かに引っ張られていくことの繰り返しだったのです。意味もわからずに。それを国民自ら判断できるように実験結果を体系化したものが歴史学ということですね。歴史学は重要な要素です。

こう考えると,左翼の階級史観もいかに警戒すべきものかがわかります。最後は,階級を止揚してもらった国民は,その後なんと,党の指導を受けて行くのですから!

>意外なところ意外なものを見た

そうですね。この本を大金はたいて買った時は。邪馬台国がこんなことになるとは想像もつきませんでしたっ!

プールに入ったつもりが,そこにサンゴ礁が広がっていた,っちゅう感じですねぇ(^o^)/~~~
Commented by 灰汁狸菟簀 at 2010-12-18 17:47 x
>そのポジションを占めることはお金になるので次から
>次に現れる。幸い,最近は三流の御用学者しか
>現れてないが,いつまた超一流の,
>平泉澄や白鳥庫吉や内藤湖南のような人材が
>現れるかもしれないのである。

いやいや、日本の歴史を創作する段階は戦前で
終了しています。もはや日本という国家はそんな
「神話作家」を必要とする段階を通り過ぎてます。
この国は既に老成した国家なのです。

>自由主義史観の理論を継続・発展させるという
>役目をだれか果たす必要があるからである。

三流の御用学者はラノベ作家レベルの消耗品に過ぎません。所詮「トリックスター」です。前航空幕僚長の体たらくを
見ればお分かりになるでしょう。

最も「斯くあるべき栄光の歴史」を作り続けねばならない
脅迫観念に取り憑かれた現在進行形の格好なサンプル
国家が有りますねえ。

かつての大日本帝国が「美しい物語の創造」に
取り憑かれた挙げ句、整合性を取れなくなり
現実と神話の齟齬を解消しようとして
世界に災厄をもたらした事を忘れてはなりません…(^o^)/
Commented by papillon9999 at 2010-12-18 18:00
これは久しぶりに骨のあるコメントやね。考えてみるけんね。
Commented by pulin at 2010-12-19 07:36 x
現代日本は良くも悪くも「敗戦の屈辱」から出発しているので、そのコンプレックスを埋めるものには、高度成長〜バブル頃までは「経済大国」という現実がなってくれたから、まあ充分でした。しかしバブル崩壊後の経済低迷時代に入っては、現在の日本にはもう誇るものはないから、「敗戦の屈辱」をひっくり返すものとして、「戦前戦中の日本は悪くなかった」「日本の歴史はこんなに素晴らしい」的な「自慰史観」への傾斜が起きたのでしょう。これはノスタルジーやアナクロともまた異質なんですよね。
三島由紀夫は高度成長時代においてこの感覚をすでに先取りしていたように思います。経済繁栄なんて虚しいぜ、とか言ってたし。
Commented by papillon9999 at 2010-12-19 10:46
灰汁選手,

>日本の歴史を創作する段階は戦前で終了しています。もはや日本という国家はそんな「神話作家」を必要とする段階を通り過ぎてます。この国は既に老成した国家なのです。

これに実はぎょっとしたとですよ。パピヨンの盲点ば衝かれたごたる感じたいネ。
しかし,よーく考えてみたら,やはりそげんこつはなかですな。
一つはおはんらがどうしても捨て切らん,中韓への「特別感情」。これを正当化するために,いつか必ず復活するはず。おはんらが小沢をあれほど蛇蝎のごとく嫌うのも,小沢が中韓受容推進タイプだけんたい。
二つ目は,実はpulin選手がいみじくも書かれたことですたい。自信を喪った日本人と日本国は必ずアイデンティティを確認せねばならん。

>「神話作家」を必要とする段階を通り過ぎてます

これはやはり意図的かどうかは知らんが,あまりにも矮小化しとるですな。幸い,今は三流の創作家しかおらんだけたい。

>現在進行形の格好なサンプル国家

恋は意味がわからん。中国のコツなら中華思想ちゅうこつかいな?こりゃ全然別。却下。
Commented by papillon9999 at 2010-12-19 10:51
というこつでplin選手,これも貴重なホームランですぞ。
Commented at 2010-12-19 14:45
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