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JALの「沈まぬ太陽」的体質(完結編)
2006年 03月 25日
山崎豊子作,「沈まぬ太陽」全五巻,読了した.照れくさいが白状しよう.泣けた.号泣ではないが胸からこみ上げてくるものを抑えきれなかった.久しぶりに涙が流れ落ちた.去年,イラクの劣化ウラン弾で被爆した少女の写真を見た時以来である.そこには「真のサムライ」たちの奮闘が描かれてあった.「真のサムライ」とはどういうものだったか,忘れられかけているが,その姿は非常に懐かしかった.
それと共に,遺族たちの心情,失った大事な人への想いが切々と綴られる.その想いは当事者でない私には想像できないことばかりで強く胸を打った.感動大作だった. 結局,国見会長や恩地たちのJAL改革は,JAL内部の魑魅魍魎たちのすさまじい陰謀・抵抗と政治家たちの策謀・裏切りによって道半ばで挫折する.国見会長を三顧の礼をもって迎えた総理自ら,変心し裏切るのである.そうなっては国見会長も辞表を出すしかなかったのだ.恩地も再び報復人事でアフリカへ飛ばされる.「真のサムライ」たちが奮闘空しく敗れて去っていく姿は痛々しくもあるが,敗者こそが美しかった. かくして,JALの体質は御巣鷹山事故当時のまま温存されたわけだ.昨今も不祥事が続いている体質と符合し,合点がいった.ただし,JAL内部にも未だに「真のサムライ」はいるはずだ.彼らにぜひ頑張って欲しい.恩地たちも含め,その後のJALの歴史もぜひ調べてみたいものだ. ここに描かれているJAL内部のひどい実態を書いておこう.魑魅魍魎たちは,生協やJALの子会社,組合などを舞台に,とてつもない利権構造を作り上げているのだ.改革への抵抗はその利権構造を崩されることが最大の理由なのである.出入り業者からのキックバックや子会社の私物化,組合費の搾取,そういった不正手段で得た莫大な金は,もちろん自分たちの私腹を肥やすことにも使われるが,政治家や官僚たちへの献金の原資ともなる.贈収賄が日常的に行われるのだ.奇妙な為替予約の話も書いてある.これは政治家サイドの金作りの陰謀であるが,天才的な悪知恵だ.結局,国見・恩地たちの改革はこの利権構造を破壊するに至らず,そのまま残されたことだろう.この利権構造は,ちょうどNHKにも当てはまるような気がしてならない.NTTや国鉄にもあったことだろう. その一方で,誠意を尽くして遺族の世話をする社員,整備に全力を尽くす社員,不審な経理を勇気を持って告発する監査役,など利権と全く関わりなく黙々と自己の務めを果す社員もたくさんいる.その対比が鮮明に描かれている. ここに登場する政治家たちのモデルは誰か,ということを考えるのも面白かった.国見を迎えた利根川総理は中曽根康弘だとすぐわかる.初めはいい役どころを演じていて,「エー?中曽根民活でしこたま儲けたはずのあの人が,こんなにかっこいい人だったのぉ?」と心配しながら読んでいたものだ.「実像は真のサムライだったのかなぁ・・」と半信半疑だったのだが,終わりに近づくに連れ「地」が出たというのか,やはり本性が現れて,見事に国見を裏切るのである.安心した.意外だったのは福田赳夫と思しき元首相の描き方だ.「清廉潔白」の政治家として,かっこいい役どころだ.実像もそうだったのだろうか.他には,金丸副総理,後藤田官房長官,三塚運輸大臣などいろいろ出てくる.金丸は汚い事が改めてよくわかった.後藤田も最近亡くなった時,「民主的な国士だ」といういい評判が立ったが,そうでもない人物だ.田中元総理はすでに倒れていて,影だけで登場する. それから,瀬島龍三と思しき,総理のブレーンが登場する.登場場面は少ないが,重要な役どころ.よく委員会で大きな顔をしていたのを私も憶えている.彼に批判的な財界人もいたことがわかり,嬉しい. 最後には司直の手が伸びる.しかし,背任・贈収賄等に関する事件として明るみに出そうな雰囲気を示唆する所までしか書かれていない.でもJAL関係の不祥事で捕まった政治家やJAL社員はいただろうか.思い出せないが恐らく大した事件にはならなかったように思う.金丸信がお縄になったのはリクルートだったはずだ. この本を読んで感動したと書いたが,もう一つの感情もある.絶望感だ.結局,この世は魑魅魍魎の世界である,ということ.絶望で暗澹とした気分である.我々一般国民は税金で搾り取られ,彼らが悪知恵の限りを尽くして合法的・非合法的に分捕った残りの滓を,何とか分け合ってて生きているだけなのだ.この世はどうしようもなく虚しく空しい・・・ ![]()
by papillon9999
| 2006-03-25 23:57
| 済み
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