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最高裁判断の考察-夫婦同姓の強制問題-2
2.人格権など,個人対国家という視点と憲法

 前報 最高裁判断の考察-夫婦同姓の強制問題-1 2016年 01月 06日 では男女平等の観点から違憲を追及するのは筋違いという趣旨を述べた。ではどうするべきなのか,という話の前に,違憲を問うもう一つの視点がある。



 それは今回の裁判でも用いられた人格権という観点である。だけども人格権というのはややあいまいで,人権侵害の実態がそれほど目に見えない為,パピヨンは大きなインパクトを持った主張とはなりにくいだろうと思っている。
 とはいえ,この視点は重要であり,男女平等の視点が女性という集団対国家というものであるのに対し,女性(だけでなく改姓を強制される男性,および,ともに改姓が嫌で事実婚という途を選んだカップルも含まれる)という個人対国家という視点である点に注目したい。

 個人対国家であれば,個人に生じる損害賠償で裁判を争うことができる。つまり,名前を強制的に変えさせられることによる精神的苦痛,および実質的に生じる損害(名義書き換えなどの法的手続きを強制されることによる経済的・時間的損害はもとより,事実婚カップルが法律的に著しい差別を受ける損害)に関する損害賠償,という流れである。これらが国家賠償の対象になるかという争点である。今回の裁判でも,そのような不利益を被る法律を放置した,ということを争点としたらしい。(法律を”施行した”ではなく,”放置した”であると思う。この差異は微妙な問題を含んでいそうだが深入りは避けておく)。

 ところが,この争点にも根本的な問題がある。これらの損害は法律婚カップルとか姓を変える必要がなかった人に比べて余分に生じたという性質のものであって,原理的なものではない(みんなに同じ損害が生じれば不利益とは言えないという意味)。従って,この不利益の度合いが小さくなれば相対的に”違憲度”は小さくなるのである。
 こういうことで,最高裁判決は『通称使用によって不利益は一定程度緩和される』という理由を以って合憲としたのだと思われる。パピヨンはこの判断については,『通称使用』ということの過大評価だと思うし,うまく逃げたな,という感じはするが,合憲判断もやむを得なかったと思う。
 元々,これで違憲判決にまで持って行くことには相当の無理があったのだ。比較的不利益ということなら,他にもたくさん例がありそうである。例えば所得の捕捉率に関して,サラリーマンの源泉徴収は違憲だ(給与所得も申告制にせよ),というのもあてはまりそうである。(違憲訴訟が実際にあるかないかは知らないが,あっても勝つのは難しいだろう。これと似ているような気がするのである。ただし,この例が適切かどうかは保証の限りではない。)

 このように,個人対国家という視点で違憲を争うには今の人権概念ではまだ不十分で,例えば【注1】に示すように基本的人権の概念をもっと拡張して確立する必要があるように思う。もし【注1】のようなことが不可能だとすれば,個人対国家という視点からでも,現民法の制度について違憲判断を引き出すことは難しいだろう。

 以上述べてきたように,選択的夫婦別姓制度に移行するには,裁判を経由しないで国会で法律を改正するしか道は残されていないように思われる。選択的夫婦別姓制度は,前報でリストアップしたように,形式的対称性が保存された夫婦の姓の制度の中で最も選択肢が広いものであり,個人の問題として被害を受ける人の数は最小となるはずである。その意味では妥当な要求だと思うが【注2】,ここに近代天皇制の外堀の存在が大きく立ちはだかるのである。(夫婦同姓婚は近代天皇制の外堀
 近代天皇制を死守したいコアな勢力は(割合が多いとは言わないが),本当は男性の姓を名乗るべし,としたいのである(女系天皇の忌避感情と同根)。しかし男女平等の理念には太刀打ちできないことはわかっていて,最低限一家族一姓を守ることができればよいという所に防御線を下げたのである。それが現民法を死守する態度に現れている。
 この掟は非常に便利だ。同姓を強制するだけ(夫の姓を強制する必要は無く)で多くの夫婦が夫の姓を名乗るという社会的実態を利用することにより,未必の結果として夫の姓を守ることができるからである。

次報は100日規定に関する判断。これに対する評価は明らかですね。

【注1】 人格権(のみ)ではなく,肖像権の名前版(これを狭い意味の人格権と言ってもよいと思う)とか(知的)財産権,自己のアイデンティティを守る権利,などの言葉でイメージされる概念が基本的人権として法学的および社会通念的に確立できれば,基本的人権の侵害で憲法判断が必要となるかも知れない。この中には,国家から改姓を強制されない権利,相当の理由があれば改姓できる権利なども含まれる。ただし,気楽な考えであるからあまり責任追及しないように。

【注2】 パピヨン自身も選択的夫婦別姓に移行した方が良いと思っているが,それは一木一草に宿った近代天皇制の亡霊が成仏してくれることを期待してのことである。欧米は夫婦の姓について規則は大らかなのに(昔習った懐かしい英語の教科書の始めの方に,Mr. and Mrs. Brown とあったよね),日本だけが非常にデリケートな議論になるのも,無論,天皇制のイエ制度の亡霊が成仏していないからである。逆に言うと,亡霊が成仏した後はこの問題も昇天するのであるが,鶏と卵のあとさき問題。①成仏⇒夫婦別姓許容,②夫婦別姓許容⇒成仏のいずれか,ということだが,パピヨンは実現しやすいのは②だと思う。ちっとやそっとでは成仏してくれないのだ。

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by papillon9999 | 2016-01-09 11:50 | Trackback(1) | Comments(0)
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Tracked from アルバイシンの丘 at 2016-01-19 13:37
タイトル : 最高裁判断の考察-夫婦同姓の強制問題-3
 前報(最高裁判断の考察-夫婦同姓の強制問題-2 2016年 01月 09日,最高裁判断の考察-夫婦同姓の強制問題-1 2016年 01月 06日)までの趣旨をまとめると以下のようになる。1.民法の条文は形式的に男女の対称性(平等性)を満たしているので,... more