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自然放射線と人工放射線(3:もう一つの藁人形叩き)
本記事は自然放射線と人工放射線(2:安井至さんの藁人形叩き)2013年 05月 07日の続編で,自然放射線と人工放射線(1:またしても安井至さん) 2013年 05月 03日で予告したもう一つの藁人形叩きを記録するものです。



2013年03月25日 人工放射線は自然放射線よりも危ないか

 この方は京都女子大の教授です。ウィキには物理化学専門の化学者と書かれています。ブログタイトルが,『小波の京女日記』とあったので,こなみさんというきょうおんなの方のブログかと思ってしまいました(^o^)。
 こちらの方は安井さんほどではありませんが,基本的に似たような誤解に基づく藁人形叩きをしておられます。共通するのは相手の言い分をしっかり確認してから議論を始めるという基本的なことを守らない点ですね。学者がこれでは論文の査読もできないでしょうに。

 さて,この方もこのビデオを見て藁人形叩きを始められました。

 「5分で分かる『自然放射線』と『人工放射線』のちがい/市川定夫氏」

 パピヨンはこのわずか5分のダイジェスト版のみから判断するので,誤解を生じたのかもしれないと思い,この記事を書くに当たって改めてこの「5分でわかる」を聴いてみました。しかし,特に問題はないと断じます。果たしてどこに問題を見出されたのでしょうか。小波氏は次のような要約からスタートされました。

 【小波氏の批判】
 この講演の趣旨は,自然放射線に生物が進化の過程で適応しているので安全であるが,人工放射線についてはそうでないというものだ.しかし,ちゃんと聞くととても単純な誤りを犯していることが明らかだ.


 下線部は前報で指摘した意味においてそういう表現も可能だと思いますが,そのように理解しておられるのかが心配です。どこが『単純な誤り』と思われたのでしょうか。見ていきましょう。といっても初めの方,ずっと科学的な説明で,妥当な記述が続きます。その一般的な記述部分の最後尾から。

 【小波氏の批判】
・・・
ここまでの話については,市川氏もまったく同意するであろう.彼の主張は別のところから出発するのだから.
_ 市川氏の論理
市川氏は講演の冒頭で,「自然放射性核種」と「人工放射性核種」と黒板に大書し.自分はかつて,物理的にこれらの違いはないという言い分を認めていたと自認する.しかし,そのあとで,生物の進化を考えるとそうではないという結論に至ったそうだ.
それによると,放射性カリウムのような自然の放射性物質については,生物はそれを蓄えないように進化した.このことをもって彼は,生物はこの種の自然放射線に適応していると結論付ける.
生物進化は有害な放射線を無害にしたわけではない

これについては2つの点を指摘したい.

まず,これの前提になっていることは,自然の放射線であっても生体に有害であるということだ.ただそれが環境中にずっとあったのだから,それでも 適応できた生物が残ってきた.常識的な進化の考え方である.自然の放射線は問題ないという主張は,彼もしているわけではない.
もう1つ,市川氏は,その適応の中身として,生物はカリウムを蓄積しなくするように進化したと言っているわけだ.ということはかつては蓄積していたのに今は蓄積しなくなってきたということになるだろう.が,それは無理だ.
(下線と赤字強調はパピヨン)
 
 小波氏はずっと市川氏の論旨の展開を確認しながらついていき,ついに『が,それは無理だ』と突き放します。ここの批判の論旨はちょっとわかりにくいのですが,初めの赤字部分『生物進化は有害な放射線を無害にしたわけではない』というのは批判なのでしょうか?別に市川氏が主張していることではないし,単なる確認ですかね。
 すると次の赤字部分『かつては蓄積していたのに今は蓄積しなくなってきたということになるだろう』という部分がメインの批判なのでしょう。『それは無理だ!』ですからね。
 ところが,ここの『それ』が何を指すのかが重大問題になるようです。ここは『蓄積しないことでカリウムの自然放射線の害を避けてきた』ということの本質的理解が求められるところなのです。考えてみれば,かつて蓄積していたんだったら,蓄積しなくなるまでにその生物は子孫が続かないはずでしょう。だからそのような主張にはなり得ないのです。
 だけど,小波氏はそのように市川氏の主張を”理解し”,『それは無理だ!』となったのです。市川氏のレクチャービデオにはこのような部分がもちろんあるのですが,この5分ダイジェストには不幸なことに入っていません。だから小波氏はその勉強する機会がなかったのでした。しかし学者がこれでは思いやられます。
 というか,学者だったから,別の道に落ち込んだともいえるかもしれません。というのは,『それは無理だ!』と思えることが専門家であるがゆえにもう一つあったのです。それは,

 【小波氏の批判】
 ちょっと化学や生化学をかじればすぐに分かるように,カリウムは生体の中で非常に重要な働きを担っていて,存在量もかなり多い.また,きわめて水に溶けやすいイオンになり,他の元素と共有結合することもない.とても溶けやすいし生体の分子に捕まることもない元素なのだ.
つまりカリウムが生物に蓄えられないのは,市川氏が主張するようにそれが有利だから進化してきたという理由では,全然ない.生物進化といえども,きわめて溶けやすく移動しやすいというカリウムイオンの化学的な振る舞いを変えることなどはできない.


 つまり,カリウムはイオン化しやすく,水とともに移動しやすい,だから蓄積しないのだ,という理屈が思い当たったのです。しかし,この理屈は学者として想像力がやや不十分ではないでしょうか。たとえばイオン排出チャンネルをほんの少し小さくするとか(今のセシウムにとってはそうなっています),濾しとって再利用するとか,カリウムを内部で蓄えるたんぱく質を作るとか,まあ,有機物だからカリウムに放射性同位体がなかったら我々の想像を絶する仕組みを考え出したことでしょう。専門家と言っても無機化学のようですからちょっと違いますものね。

 ところが,この本質を理解してないために,小波さんはとんでもない結論に導いて行かれます。これはちょっと許されません。それは,

 【小波氏の批判】
 ・・・
 ということは,彼の進化的な観点からの論理にしても,体内の放射性カリウムから発生する放射線のレベルになら,生物は適応できているということでしかない.それが自然放射線であろうとなかろうと関係はないのだ.
ついでにいうと,このことは私たちが許容出来る放射性物質の取り込みの最大値の目安を与えてくれるものだ.人の体内の放射性カリウムからの放射線は3000ベクレルあまりだから,毎日の取り込む量と生物学的半減期を考慮して,基準を決めることになる.


 この論理も御用論理そのものです。(ただし,小波氏は原発廃止に賛成だそうです。これは信じられますが,最後に触れます)。これが嘘なことは,前報までの『褥瘡の論理』で皆さんお判りと思います。そもそも,仮に3000ベクレルまでに適応しているとしても,それ以上増やしていいことにはならないのです。カリウムを全部取ってしまえるのなら,3000ベクレルまで別の放射能を入れて循環させてもいいとは言えますが。カリウムの件以外でも,この理屈を使おうとする不届き者もいますからご注意を。

 【小波氏の批判】
セシウムはカリウムと(化学的に)同じだから,人体にはいっても何ら問題ない.しかし放射性のセシウムは原子炉で作り出すものだから,(ヨウ素と同じように)じわじわじわじわ蓄えられる
ヨウ素とセシウムの議論を類推的に進めて同じ結論を導こうというわけだ.しかし,ここではアナロジーは成立しない.
まず,ヨウ素は甲状腺ホルモンという化合物を構成する元素であって,そのために甲状腺に集められてホルモン合成に利用される.だから放射性のヨウ素があればそれも同様に濃縮される.
しかしセシウムはそもそも生体にとって必要な元素ではなく,濃縮されたり蓄えられたりはしないのだ.セシウムが体に取り込まれるのは,類似の元素で あるカリウムと一緒に混じり込むのであって,カリウムと同様にアルカリ金属イオンとして動きまわり,そして排出される.このことはすでにこの日記で昨年書 いていることなので,詳しくはそれを読んでみてほしい.


 ここは5分ビデオしか見てないことの報いで,出来上がった藁人形です。詳細はもういいでしょう。ただ,セシウムの排出システムがわずかに劣ることをご存じない。たぶん,無機化学の知識だけで判断しようとするからでしょう。
 その後,土壌中のセシウム汚染が厄介とか外部からの放射線の方が怖いとかいう話が続くのですが,これも藁人形。市川氏のこのビデオシリーズは,チェルノブイリ後の食物連鎖の危険性をアピールするために行われたのですから,外部被ばくについては対象ではないのです。

 【小波氏の批判】
天然放射性核種との比較を市川氏はしていない
さて,この講演の趣旨は「人工放射線は天然のものよりも危険だ」という結論を出すためにやっているはずである.


 ここも違いますね。端的に言えば,人工放射線ではなく人工放射性核種の危険性でした。そして,どうしても取り上げなくてはならないのが次の部分です。

 【小波氏の批判】
生物が放射線に適応してきた実質は何か

 進化的な適応の議論から自然放射線は問題ないとする市川氏の議論は「問題あり」を前提にしているという論理構造のまずさを上で指摘した.また適応の中身についての勘違いがあることも書いた.しかし,もちろん生物は有害な放射線に適応する方向に進化しているはずだ.
その適応の実質的な中身は何かというと,修復機構の進化と考えるべきだ.設計図となる DNA の破壊がもっともダメージが大きいので,DNA や染色体をガードする方向での進化が進んだことは想像に難くない.真核生物で染色体がペアになっていることもあるいはそうなのだろう.その他,さまざまな 防御策が採用されて,放射線に対する感受性も多様化していることは確かだ.科学雑誌や科学番組には,その種の最新の話がしばしば載っている.
「カリウムを蓄積しないように生物は進化した」という市川氏の話は,科学的にまともなものではないのである.


 第一の下線部は小波氏の想像力の貧困さを物語ります。修復機構は一つの手段にすぎません。生命体は多種多様な方法で放射線を潜り抜けてきたのです。一つは使わないことです。できるだけ安全な元素を使ってシステムを作り上げること,これがおそらく第一でしょう。そして,『褥瘡の論理』です。
 いったん出来上がった生命体(もちろん,固定した状態ではないです)にとってはもはや修復機構のみで対応するしかありませんが(超長期的には想像を絶する方法が出来上がるかもしれません。でもそれまで地球が持つかしら),そのように出来上がった過程において,あらゆる手段が試されたはずなのです。当然ながら今の生命体はその名残をとどめているわけで,小波氏の話は近視眼的すぎるのです。
 第二の下線部,『科学的にまともなものではない』という記述が,もし『以前は蓄積していたのに,進化で蓄積しなくなった』という誤解を前提としたものならば,誤解の基づくものでまあ,許容範囲と言えなくもありません。しかし,『修復機構以外にはあり得ない』ということを意味するものであれば,これはもはや学者としての存在価値を疑われるレベルです(専門内のことは除きますよ)。いったいどちらでしょう? 

 あとは同じなので,最後に小波氏の立ち位置を見ておきます。ご自分で書いておられます。

 【小波氏の批判】
私は原発廃止に賛成する者だ

 最後になるが,私は原発廃止論者である.一旦事故を起こした時の被害の大きさは,通常のリスク管理論でカバーできるものではない.それは今の福島を 見れば誰にも否定出来ない話だ.原発は人間の浅知恵でコントロールできるシロモノではない.ごく最近もネズミ1匹が停電を引き起こしたではないか.ネズミ の行動までリスク計算に含めていたのか?まさかである.ましてやリスクを過小評価することに狂奔して数々の嘘をついてきた政府や電力会社を信用したら,何度でも悲劇が起きるだろう.
そして,どうにもならない核廃棄物の処理問題.世界中で難航し,まして火山と地震の国である日本で,これをどうしようというのだろうか?
このことを考えれば,原発を推進することが如何にクレイジーであるかは歴然としている.これに合理的な反論をできた人はいないはずだ.原発に反対するなら,ちゃんと道理を説けばよい.道理の前に砕け散るほどに原発推進の論理は弱いのだ.
科学的な嘘を並べ立てて反原発の口実を作ろうなどという愚かな真似だけは,良心をもつ人間としてやるべきことではないと思う.


 ここでの原発推進に対する批判は正当で,下線部もまったくその通りです。小波氏のこの態度は信用します。しかし,下線部のように,原発批判を主張するには正当に行わないといけませんが,それと全く同じく,反原発を批判する際にも正当に行わないといけません。特に,『原発推進に反対』なのだから,この反原発批判論は信憑性が高い,などと逆バイアスがかかってしまいますので,余計に注意が必要です。(安井至さんの記事なら,ああ,どうせ・・・なんて馬鹿にできますから)
 それで本題からずれるのでここに書きますが,小出裕章氏のメルトスルー発言への批判,

 【小波氏の批判】
京大助教の小出裕章氏がいる.だが,私は彼を信用しない.1つだけ言うと,事故を起こした原発の核燃 料が「メルトスルー」を起こして原子炉の床を突き破って地下に潜っているなどということを,何の根拠もなく語っている,そのことだけで十分だと思う.話が 悲惨であればあるほど良心的であるとみなす人がいるが,専門領域に関して根拠のないことをいう人は科学者ではない.


について,『「メルトスルー」を起こして原子炉の床を突き破って地下に潜っている』のどの部分が根拠のないことと小波さんは思っておられるのですか?ここにはいくつかのアイテムがあります。『「メルトスルー」を起こしたこと』,『原子炉の床を突き破ったこと』,『地下に潜っていること』です。根拠がないと思うのはこれらすべてですか?それとも最後の地下に潜っていることですか?メルトスルーは起こっていないのですか?そして,小出氏は何の根拠もない話し方だったのですか?

 もしこの記事をご覧になったらぜひ教えてください。私はこれについては詳しいことは知りませんが,これらすべてが根拠のないこととは思えないのです。どこからがそうなのか(思われるのか)です。

 小波氏の他の記事を拝見しますと,憲法観や戦争観はパピヨンと同じ立場のようです。他の科学的な記事について若干の異論を持つ部分がありましたが,それでも基本的には「安井さんのようなたちの悪い人」ではないと思いました。
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by papillon9999 | 2013-05-08 08:22 | Trackback | Comments(2)
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Commented by papillon9999 at 2013-06-11 22:51
小波さんの不思議な立ち位置の由来がわかったよ。

原発廃止論者でありながら,放射能は思ったほど危険ではないとする,やや珍しい立ち位置だったこの人。この記事の時から疑問でしたよ。
むろん,原発廃止論者が放射能安全論者(思ったほど危険でないという立場も含む)であってもおかしくはなかです。原発が社会に相容れない理由にはいろんな側面があるから。しかし,そういうケースはかなり少ないでしょう。素朴に,危険な側面が最も間近に見えるけん。
(しかし,放射能忌避すべき派であって,原発容認論者というのは稀有といっていいでしょう。)
Commented by papillon9999 at 2013-06-11 22:52
さて,小波さんのこの珍しい立ち位置の由来だが,これはズバリ,菊池誠さんとか早野龍吾さん辺りへの迎合でしょ。

小波さんは御用学者ウィキの反原発のカテゴリーに鎮座しておられる。http://www50.atwiki.jp/goyo/pages/195.html
それで,下記のことは知ってはいたが,このコメントが孕む意味をイマイチ読み取れなかったのです。(違った意見にも隔てなく接することのできる人のようなイメージ)
だが,どうもそうではないな。こりゃ,迎合です。(^o^)/

@konamih こなみひでお
菊地誠氏が,御用学者で政府を擁護し原発推進派であるというのなら,
それはまったくあべこべなんだけどね。
そう見える人は物の考え方を省みたほうがいいと思うぞ。

この迎合は,その辺の二枚舌ブサヨの放射能忌避派への妙な攻撃的態度と同じたい。(^o^)/