アルバイシンの丘
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低線量被曝の真実(9:DDREFの不思議)
 NHKのドキュメンタリー番組低線量被ばく 揺らぐ国際基準に関連して,すでに3本の記事を書いた。
低線量被曝の真実(8:とんだ伏兵,トリチウム) 2012年 02月 02日
低線量被曝の真実(7:疫学的実態) 2012年 01月 31日
低線量被曝の真実(6:ICRPの基準とは) 2012年 01月 29日



 当然のことながら(その方が健全という意味で)これにも抗議の反論が寄せられている。

「低線量被ばく 揺らぐ国際基準」への抗議と要望について

 本記事ではこの抗議への反論を試みる。抗議の最大の論点は,線量・線量率効果係数 (DDREF)を巡る議論だろう。
 他にも,公平な報道をすべし,とか原発推進に有利なことは無視しているとか,疫学的実態の報道は疫学的に根拠はないとか,まあ,要するに見解の相違とインサイダー論理に支配されているので,今ここでは反論の必要を認めない。

 ということで線量・線量率効果係数 (DDREF)についてのみ反論を掲載しておく。
 まず,反論の筋道を要約する。おそらく,番組で大きなインパクトを与えた部分だったのだろう。
 前記事にも書いているが,1980年代の後半に原爆データの見直しを進めた日米合同チームは,ある被害を与える線量レベルが,従来よりも半分だったことを発見したのである。この結果,リスクは当然2倍となる。
 ところがICRPは,100mSv以上のリスク線図を2倍に引き上げたものの,100mSv以下の部分のリスク線図はそのままに据え置いた(つまり,リスクを新たな基準の半分とした)のである。
 その部分の証言をICRPの事務局長から引き出し,番組では字幕とともに衝撃の事実として放映された。ICRPは基準を誤魔化していたのか?!といった感じで。

 以上のような放送に対し,抗議は次のようになっている。(打ち直し)

 (1)論旨の意図的なすり替え
 報道ではオタワのICRP事務局でクレメント氏が「低線量のリスクを半分にしていることが妥当なのか議論している」と日本語音声に翻訳していますが,録画を見直したら同氏は該当部分を「DDREF」とはっきり言っています。線量(時間積算値)が同じでも線量率(単位時間当たりの線量)が違うと「放射線の生物影響」が異なる,即ち「高線量率・短時間」と「低線量率・長時間」の照射で効果が異なりDDREFが導入されています。原爆のような1度の大量被ばくでの評価結果を「低線量率・長時間」に適用するためにDDREF値により補正を行うのは常識になっています。彼が述べているのはDDREFについての不確実性であり,NHK報道ではそれをリスクを低く見ているかのごとく意図的に意味が全く異なったものにすり替えてしまっています。


 この抗議の趣旨を翻訳すると,クレメント氏の発言がナレーションでは「低線量のリスクを半分にしていることが妥当なのか議論している」と伝えたのに対し,そうではなく『「DDREF」とはっきり言っています』と書いている。
 実はここには抗議する側の怖々とした誤魔化しがある。上の抗議文をよく読んでみよう。この部分はほとんどDDREFの説明であり,大部分はクレメントの発言とは関係のないことを言っていることに読者は気づいてもらいたい。

 確かに,クレメントは「DDREF」という言葉をはっきりと使い,ナレーションにはそれがない。しかし,それは全く本質的な問題ではないクレメントは「DDREF」という言葉で何を伝えたかったのかが問題なのである。それを抗議文では『彼が述べているのはDDREFについての不確実性であり』としか書いていない。
 それは明らかに違う。彼はDDREFという言葉で,NHKのいう「低線量のリスクを半分にしていることが妥当なのか議論している」ということを伝えたかったのである。その状況証拠はいくつもある。列挙しよう。
 1.ICRPの会議が伝えられたが,論調は低リスク線図のままでよいのか?という疑問が支配していることが分かる,
 2.なぜリスクをそのままにしたかの問いに「委員になる前のことだからわかりません」と答えている。つまりDDREFの考えでそのままにした,とは答えていない。
 3.他の名誉委員が,「どうせわからないのだから」,「どうせ不確かなんだから」(たぶん,uncertain)と答えており,DDREFの概念を用いてはいない。
 4.あまり自信はないが,確かwhole concept の言葉が出て来ると思う。つまり,今の値のレベルのみでなく,DDREFの概念自体の見直しを示唆している。(いやこれは自信が無い)
 5.その後,マインホールドなどの話は,引き上げ案に対し,引き下げ案を出して対抗している。つまり,話は,「なぜそのままリスクを留置いたのか」に対する返答になっている。DDREFの考えによってそのままにしようとはなっていない。(関係者からの圧力の話も重要な証拠だが,それも不要なほど他に一杯証拠がある。)
 6.さらに作業者用にさらに20%リスクを引き下げた際に,労働者の中に子供や高齢者はいないから,と答えたが,ここでもDDREFの話と結び付かない。以下の部分,聴き取ったが不正確かも。
We said that the workers could have a, ・・・have a low risk, because there are not children and older people・・. We were not suggesting that there is any difference between those but that's the way we approached. We didn't have that data.
(労働者は低いリスクとしてもいいだろう,子供や老人はいないから,と我々は言った。でもこれはそれらの間(たぶん,労働者と子供・老人のリスク)に違いがあるということではない。それが我々のやり方なのだ。我々はデータを持っていなかった。)【とんだ聞き違いかも知れないのをお断りしておく】

 以上のように,NHKの放送ではDDREFの言葉こそ使わなかったが,ICRPが『そのまま低く留置いてよいのか?ということを自問し,悩みに直面していること』のニュアンスを正しく伝えている。明らかに,単なるDDREFの不確実性を語っているのではないのだ。よって,この部分の抗議は正当ではないと考える。

 次に,DDREFそのものについて,抗議文を基に考える。そもそも,DDREFなる係数はよく考えると非常に不思議なシロモノなのだ。DDREFはいったいいつ導入されたのか?

 もし,リスク線図見直しの以前から導入されていたとする。すると,ホントはリスクは半分なのに,見直し時点まで2倍のリスク線図を適用していた,つまりICRPは被爆者のためを思って安全側に設定していたことになる。この場合に限って,ICRPを褒めてあげよう。だが,話の様子からはその可能性は全くなさそうだ。なぜなら,「そこに留置いた」という話だから。元々2倍のリスクを設定してたのなら,見直し時点で本来の値に戻ることになる。ところがそんな話はどこにも出て来ない。
 次に,もし見直し時期と同時だったとする。すると,今度は,RRDEFの考え方がそれまでどうしてなかったの?ということになる。もちろん,科学の発展によって修正されていくことはあるが,見直しと全く同時に,それもちょうどDDREF=2という都合のよい『理論』が出来上がったのだ。リスク線図は変更なしで済ませられるホントに都合のよい理論だ。だけど,政策的に,恣意的に決めたとしても部外者にはわからない。聞けば,DDREF=2~10のいろんな説があるそうだ。(2以下もありそう)。望みのリスク線図をいかようにも得ることができる便利な概念だ。
 さらに,もし見直しよりも後になって,DDREFの概念が出来たとしたらどうだろう?これは当然ながら,元のままに留置いたことは非常に犯罪的なことになる。

 「高線量率・短時間」と「低線量率・長時間」の違いを表わしたいという,DDREFの概念自体はわからんわけではない。苦労してるなあという感じは持つが,一定の理屈は持っていると思う。しかし,何しろuncertain,不確実な”科学的事実”を表現するのだから非常にあいまいで恣意的なものにならざるを得ないだろう。
 そのような不確かなものを導入するのであれば,もっと確実と誰にも思える,内部被曝係数なるものを導入せよ。恐らく,子供用の内部被曝係数は,パピヨンの勝手な想像では100を超えるはずだ。

 抗議文への反論は一応この程度にしておきます。
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by papillon9999 | 2012-02-03 18:02 | Trackback | Comments(9)
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Commented by 磐梯朝日国立公園 at 2012-02-03 23:35 x
DDREFの不思議さがよく
わかりました。
メールを戴いた時よりさらに
中身が進歩していますね。
Commented by 眠れぬ人 at 2012-02-04 00:22 x
初めまして。いつも拝見していますが、コメントは初めてです。

この問題をこのような切り口で語ったエントリーは初めてです。素晴らしい。
ROM専がポリシーで書き込みしませんが、健闘を祈ります。
Commented by papillon9999 at 2012-02-04 09:23
磐梯さん,眠れぬ人さん,どうもありがとう。恐縮です。ところで,
>「高線量率・短時間」と「低線量率・長時間」の違いを表わしたいという,DDREFの概念自体はわからんわけではない
なんて書きましたが,この矛盾を発見しました。というか,門外漢のパピヨンが断定するのはおこがましいので,その矛盾(と思われること)を専門の方たちに問いたいと思っています。
「高線量率・短時間」と「低線量率・長時間」と言われるとなるほどと思ってしまいますが,よく考えるとそれもおかしいです。まるでコロンボのアリバイ崩しみたい(^o^)/^^^^^^^^^^
Commented by 考えすぎです! at 2013-07-02 11:47 x
子供の内部被ばく係数が100を超えるってのは考えすぎですね。今問題の放射性セシウムは排尿されてどんどん出ていきますから。それは大人よりも子供の方がどうやら排泄が早いようです。結果として大人と子供でリスクはそれほど変わらないんじゃないかってオチになりそうです。
Commented by papillon9999 at 2013-07-02 21:32
こちらも,お知らせ,どうもありがとうございます。
こちらは,子供にとって,素晴らしい朗報じゃないですか!

>放射性セシウムは排尿されてどんどん出ていきますから。それは大人よりも子供の方がどうやら排泄が早いようです

これはとても嬉しいけど,その資料,どうやったら確認できますかね?ぜひ教えてください。それから

>結果として大人と子供でリスクはそれほど変わらないんじゃないかってオチになりそうです

ですが,『オチになりそう』ではなくて,もう少し確実な情報はありませんか?パピヨンの考えすぎだったら,とても嬉しい(^o^)/
Commented at 2013-07-03 08:02 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by bandai at 2013-07-03 22:20 x
確かに朗報だよな。
おいらも早く見たいだべ。


よろしくな。
Commented by bandai at 2013-07-08 17:01 x
おいおい、早く考えすぎのデータを示せよ。


まさか、まさかだよな。
Commented by papillon9999 at 2013-07-08 22:05
こういうのを昔の人は『やぶへび』と申したんではないですかね。

今回のやぶツツキで出てきたものは,確たる証拠もなく『セシウムは体内に取り込んでも子供の方がどうやら排泄が早い(よって子供だからといって特別視する必要はない)』という安全情報でした(^o^)/
これがホントにそうであることを祈りますが,その根拠が示されないとなると,典型的なやぶへびになりますなあ・・

つまり,根拠のない安全情報を撒き散らしたい個人なり組織なりが存在するという傍証になるちゅうこつですが・・・

これがホントにそうでないことを祈ります(あれっ?)