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原発と似非科学と御用学問
2011年 10月 12日
この記事は原発の問題がニセ科学の問題になりにくいわけ に対するパピヨンなりの解答を与えるものである。
すなわち,超高度な科学の応用であるはずの原発関連が,安全神話を始めとする多くの”ウソ”に守られる必要があったことが判明したわけだが,そのことは『ニセ科学』として批判できるものなのかどうかという問題である。 実際,不思議なことに,ニセ科学批判派は原発批判には及び腰だそうである。むしろ陰解法的に反原発派を揶揄し,推進派を擁護しているらしい(孫引きで申し訳ないが,ここの記事を挙げておく(菊池誠6。直接には興味ない人なので知らない。) 初めの引用記事は,ブログ主であるapjさんの釈明の類いであろうと思われる(apjさんもまたニセ科学批判派として知られる人のようだが,「原発の問題をニセ科学の問題として、私がほとんど取り上げて来なかったことは事実である。」と書いておられる。 確かに,原発自体はニセ科学とは言えない。現実に発電は曲がりなりにも物理学の理論通りに成功しているからである。ただ,いろんな中小事故はしょっちゅう起こるなど,実は綱渡りのヒヤヒヤ技術であることは厳重に隠されてきた。それによって”安全神話”なるものも生まれてきたわけだが,それを”ニセ科学”と呼べるかどうかははっきりとはしない。 別に,ニセ科学批判派のダブスタ(陰解法的原発擁護論)を擁護するわけではないが,この問題は『科学』対『ニセ科学』という観点とは別の捉え方をする必要があるように思う。本記事ではそのことについて考えるのである。 『御用学者』とは以前からあったが,福島原発のおかげですっかり有名になった言葉だ。ならば,『御用学問』という言葉もあっておかしくはない。上述の説明の切り口として,本記事では『御用学問』という概念を用いてみる。 そこでまず”学問”と言うことについて考える。最近になって特に思うようになったことは,学問には2.5種類あるということである。ここに学問とは, 『科学的な論証によりある命題なり事実なりが共有され,かつ第三者の検証が可能であること』 ぐらいの軽い定義で考えよう。厳密に考え始めるとキリがなくなる。当然,自然科学のみでなく,社会科学,人文科学も含む。もっと手短にいえば,大学に研究室が存在するような学術分野,と言い換えてもいいかもしれない。 さて,その2.5種類とは? パピヨンは次の分類を提案する。 1.真理・真実探求のための学問 2.国家統治・政治のための学問 3.人間のための学問(後述するように,1や2に重なる場合が多く,半独立のカテゴリーとみなす。そのため0.5の扱い) まず,カテゴリー1は誰にも異存はあるまい。通常は学問とはこの一種類のみと信じられている。しかし,実際はそうではないことが福島原発の事故で明るみにさらけ出された。 例えば,原発はコストが最も安い発電方法,いかなる地震が襲っても必ず原子炉を停止できる制御システム,30年過ぎたけどまだあと30年は使える原子炉,・・・などはとても『真理・真実追究のための学問の成果』とは言えない。 ではこれは「ニセ科学」に入れるべきか?おそらく,これはニセ科学の定義(よくは知らないが)に当てはまらないと思う。「やってみなければ分からない」という要素が少なからず含まれるからだ。 従って,カテゴリー1だけでは不十分であることがわかる。 こうして,カテゴリー2が必要となる。ここにカテゴライズされる『科学』とは,もちろんニセ科学ではない。例えばそこで用いられる掛け算,割り算は正しいし,微分,積分も正しい。連立方程式の解も間違っていないし,確率の計算や統計的な有意性を論じる際にもごまかしはない。 しかし,それでも上手にウソをつくことは可能である。そこに用いるデータをちょっとだけ恣意的に取捨選択すれば結論はいかようにも変えることができる。よく言われる『統計で上手に嘘をつく』ということもこれと同じカテゴリーの話である。 もちろん,そのウソがひどければ捏造であり,捏造はニセ科学と言うこともできようが,その境界は普通は明瞭ではない。データの取捨選択であっても,見解の相違に帰着されることもある。このようなことは,『国家のため,統治のための学問』のカテゴリーを用意することで解決するように思われる。 山下俊一さんの『疫学』なるものがまさにそうであろう。ただし,『疫学』分野全体と言うよりは,この人にかかる『疫学』がカテゴリー2に属するというだけの話で,『御用学者』とのセットが必要なことが多いだろう。 もっと別の例を挙げてみよう。『邪馬台国論』である。 邪馬台国などどこにあったかなんて,人類の幸せのためには全く関係ない。しかし,それを何かに利用しようとする者にとってはきわめて重要な鍵を握る場合がある。大和にあった方が我が国の正統性,優秀性を主張するに都合が良い場合もあれば,逆に大和にあっては正統王朝が大昔から中国にぺこぺこしていたことの証拠となってきわめて都合が悪い場合もある。 そういうとき,時の政府は都合の良い方に肩入れし,その方を『一学説』の立場から『定説』の立場へ強化を図るだろう。それを推進するものが帝大の〇〇学教室であったりする。このようなことも立派な学問としてこれまで成り立ってきたし,これからもずっと続いていくのである。 この,カテゴリー2の学問を『御用学問』と呼びたいのである。 邪馬台国論や旧石器時代の話など人類の幸せのためには全くどうでもよいからこそ,余計にどのような嘘でも安心してつけるわけである(ただし,多くの学者は真摯にカテゴリー1の学問を行っていることを明記しておく)。 ところが,こと原発のようなものや放射線被曝の実態のようなもの,あるいは新自由主義のような格差必要論,優生学のようなものになるとそうはいかない。日本国全滅や国民総癌の事態さえ起こりかねないのである。ましてやそれが利権に絡むとなると最悪である。これはカテゴリー3ともつながってくる。 そのカテゴリー3というのは『人間のため』としたが,ヒューマンファクターという意味の広い範囲を想定している。ヒューマニズム的な観点の学問も含むし(核兵器廃絶論とか平和学?),国家統治とは関係ないが個人的な功名心や金儲けに基づくもの,学派の名誉のために展開するものもあり得る。(10月15日追加:倫理上の問題もここに含まれる。倫理上やってはいけない研究・学問というものは厳然と存在する。たとえ科学的に真実であってもやってはいけない研究である。このようなものは1も兼ねるが,3にも含まれる。) いや,結果的に個人の金儲けにつながっても何ら問題はない。だが,金儲けのために結果データを捏造することは論外としても,競合する同種の技術で明らかに劣ると分かっているのに自分の側の方が優れていると主張することはよくあることだ。不思議なことに,自然淘汰で優秀な方が残る,というわけではないのである。そこに宣伝のようなものが必要になる。 宣伝のためには捏造とまでは行かずとも灰色部分が入り込むこともあるだろう。ニセなのか捏造なのか,あるいはそれ自体はウソではないのに全く役には立たないだけなのか,実は区別はなかなか付きにくいのである。 人文科学にだって存在する。ある学説で大量に本を売りまくるということがある。その学派の弟子たちはその学説に不利なことは言ったり書いたりすることは絶対禁止である。新たに得られた資料も自派の学説に有利なように恣意的に解釈する。それも捏造ではなくて思い込みであったりする。だから良心は痛まない。 以上のように,学問は2.5種のカテゴリーに分けられると考えれば,原発安全神話を似非科学の文脈で批判しにくかったことはまあ,理解はできるのである。 ただし,ならば似非科学批判派はどうして『ニセ科学の視点』以外の文脈で原発安全神話を批判しなかったのだろうか? 果たして似非科学批判派は『御用学問』の存在を認めるのだろうか? 次に,『御用学問』を支える『御用論理』というものを考える。
by papillon9999
| 2011-10-12 23:59
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Comments(14)
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pulin
at 2011-10-15 08:02
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「御用学者」も相対的なもので、反原発・脱原発派が天下を取った場合あるいは天下の趨勢が反原発・脱原発で決った際には、反原発・脱原発や放射能の危険を叫ぶ学者・学問がすなわち「御用学者」「御用学問」になるわけです。
原発以外の発電方法が無問題かというと全くそうではなく、環境問題や健康被害についても問題山積なので、所詮原発を廃止しても次善の策でしかないのですが、原発をやめるためには原発以外の発電方法を賛美しなければならない場面も生じそこにはいろいろの欺瞞で塗り固めなければならなくなります。 だから、「ニセ科学」だ「違う」なんて不毛なことをやっているよりもいか言いくるめて自分のやり方を世の中で推進させるか考えている方が賢いのでしょうね。 そのあたり、経済学者は上手だなと思ったりします。
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papillon9999 at 2011-10-15 09:10
このコメントは合っている部分と違っている部分が同居しとるです。或る意味で危険とです。
今だって,原発推進=御用学問,とは言えん。そういう意味ではなかです。 巨大なシステムを研究するには莫大な金が必要で国家れべるの協力が要る,だから国家の都合のよい結果を捏造するようになる,官僚利権が入りこめるようにする,となれば御用となるです。 でも,かつてのマンハッタンのように原爆開発ですら,パピヨンの分類では1のカテゴリーですぞ。それは真理・真実やけん。ただ,それが人類の幸福に完全に敵対する,という面では3の要素もある。つまり倫理上,やっちゃいけない研究というのがあるが,それをやる動機は功名心かな。それが科学的には真実ならば1と3に入れるべきでしょ。遺伝子操作による新型生物開発などもね。ならず者国家がやるとしても真理を歪めない限り御用学問には入らん。御用学問とはあくまでも真理を歪める,というファクターが肝ですじゃ。
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papillon9999 at 2011-10-15 09:18
それから,常に相対化がお好きなpulinさんだが,
>環境問題や健康被害についても問題山積なので、所詮原発を廃止しても次善の策でしかない この論理はおかしいちゅうたでしょが。ロシアンルーレットを一つ増やすバカ者はおらんでしょ?他のファクターも一つ一つ減らそうと各分野でやりよるとやけん。 非原発発電だって,捏造すれば御用だし,それ自体は1ですぞ。 >「ニセ科学」だ「違う」なんて不毛なこと これは全然不毛ではありまっせん。1か2か3か,峻別することはきわめて重要なこつです。 ただし,最近の経済学なんてヤクザなものは何が真実かわかるはずがなかです。数学的には真実かもしれんが,その通りに人間社会が動くとする処で2になってしまう,と考えたらよいのかな。 その点,仰る通り”賢い”のかも知れん。ここはクリーンヒットです。
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papillon9999 at 2011-10-15 09:53
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at 2011-10-15 12:11
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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PULIN
at 2011-10-16 06:44
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隔離は排除である、とは誰が言っているわけでもないですが。
精神障害者に対する予防拘禁・保安処分の議論、性犯罪前科者へのGPS装着の議論などが、隔離・排除の論理が端的に見られます。 排外主義と根っ子が同じですね。
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PULIN
at 2011-10-16 06:59
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ニセ科学関連では、なぜ反原発の言説は陰謀論と結びつきやすいのか?というテーマも浮上してきますね。
反原発・脱原発・放射能の危険を訴えるのはもっともでも、そこに陰謀論が練り込まれていたりするから、みすみす主張の価値を下げてしまうような例が多々見られます。 核・原子力という不正なものが横行していること自体陰謀以外に考えられないとなってしまうのでしょうか。
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papillon9999 at 2011-10-16 09:18
>精神障害者に対する予防拘禁・保安処分の議論、性犯罪前科者へのGPS装着の議論など
ああ,そういう限られた場合を想定しているとですね。わかりました。 『病気の予防とは「排除の論理」に他ならず』 なんて言い方はそうなっていません。もう結構です。 ところで,精神障害者と性犯罪加害者とを同列に論じるのは感心せんですな。後者は懲役刑と同じく,GPS管理すべきだと思っています。前者は排除ではなく福祉の観点が必要でっしょ。 >ニセ科学関連では、なぜ反原発の言説は陰謀論と結びつきやすいのか うん,うん,これは大問題とです。 >みすみす主張の価値を下げてしまうような例 これは全くその通りですバイ。左翼がきくちゆみを信奉することと同じ。 元々,御用学問はどっかにごまかしがあることだから,それを陰謀と言えんことはないはずで,それを適切に暴くという高度の知性が必要ちゅうこつです(^o^)/
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pulin
at 2011-10-16 11:25
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性犯罪者そして犯罪者は刑に服したあとは何の罪もない一般人なのですから、仮に前科者が犯罪を犯す率が高い統計があったとしても、GPS管理などは問題だと思いますね。
それならば、犯罪を犯すことが多い社会階層があったとして、その人々もそのようにして管理すべきだという話になっていしまいます。 予防云々については国やら行政やらがボケ予防なんていうのを聞くと、聞くとボケたら面倒見切れないから自己責任でボケないようにしろといった底意を感じなくもありません。
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磐梯朝日国立公園
at 2011-10-16 20:42
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>刑に服したあとは
もちろん刑法を改正した後の話でしょう。 GPS装着義務も刑の一部となるんです。 懲役刑の一部を装着義務に変換する と考えればよいのではないでしょうか。 たとえば懲役2年+装着義務5年など いかがでしょうか。 私は賛成です。
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papillon9999 at 2011-10-16 21:59
>それならば、犯罪を犯すことが多い社会階層があったとして、その人々もそのようにして管理すべきだという話になっていしまいます
なりまっせん! それから磐梯さん,仰る通りです。パピヨンとしては懲役1年に対してGPS義務5年ぐらいをバーター(選択)できるようにするとおもろいな,と思ったりしておりますです。 従来の刑法では懲役2年だったのが,新刑法では少し重くして2年半とする。ただし,その半年分,または1年分をGPS義務に置き換える選択が可能,っちゅうのはどうです? この人の場合,懲役1年半,GPS5年となることを選択しました。 ただし,懲役をすべてGPSに置き換えることはだめで,最長懲役の半分まで。(^o^)/^^^^^^^^^^
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pulin
at 2011-10-17 05:44
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そのようなシステムは、現在でもある仮釈放において、もう少し厳しく監視されるイメージですね。
現在日本で導入が検討されている性犯罪者GPS監視は刑法改正による刑の一部でなく自治体の条例としてのようです。 日本人は短絡的だから、GPSの他に外見的に目立つシンボルも装着させておくべきだ、という話にもなるかもしれません。
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磐梯朝日国立公園
at 2011-10-17 07:44
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papillon9999 at 2011-10-17 09:15
ふむふむ,なかなか良い議論になっとるね。
>GPSの他に外見的に目立つシンボルも装着 こりゃ笑えるが,さすがにそこまではいかんじゃろうですな。頭に黄色い羽飾りとか赤い羽根の代わりに黒い羽根とかネ。うーん,やってみたい! |