アルバイシンの丘
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随想や意見,俳句(もどき)

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ユダヤ人とは何か(5)ユダヤ人
 ユダヤ教,選民思想,建国運動,と考えてきて,ならば結局『ユダヤ人とは何か』という問いに再び還ることになった.このシリーズ最終回として改めてパピヨンの理解,結論をまとめておく.記事を書き始める前には何もno idea だったのが,記事を書いてきた中で確信ができてきたことである.



 祖霊望郷の民

と書いたものの,ユダヤ人とは何かについての解答はすでに出ている

 『ユダヤ人とは,人種によってではなく,宗教によって定義された民族である』

 しかし,それでも猶お次のような疑問が残る.
 一つは,ある人種的な特徴を備えているようなイメージがどうしても払拭できない(気がする)点である.しかし,これについてはすでにシリーズ(2)の【注2】で考察した.そう,それは結果的なものであって,その本質に由来するものではない(と思う).
 布教へのスタンスの違いと教義が独特なために(例えば割礼)人種的な広がりを生じることができず,たとえば日本にまで達することができなかったのだ.キリスト教となんという違いだろう.だから結果的に,ユダヤ教徒=ユダヤ人種という偽の公式が存在するかのように誤解されたのである【注1】.

 もう一つは,すでにユダヤ教信者ではなくなった者でもユダヤ人と呼ばれることが多いことである.例えば,あのカールマルクス,スティーブン・J・グールド,これら両者は宗教的であるはずがない.それからアインシュタインもユダヤ人と呼ばれるがユダヤ教信者とは思えない.
 これをどう考えるべきか.簡単である.ユダヤ人とはユダヤ人の子孫まで含むと考えればよい.つまり,ご先祖様の誰かがユダヤ人になったとすれば,その子孫はたとえユダヤ教徒ではなくなってもユダヤ人と呼ばれる.カールマルクスのご先祖様の誰かがきっとユダヤ教の戒律の中に生きたのだろう.
 かくして,アブラハムの子孫はユダヤ教徒ではなくなってもユダヤ人であり続けなければならないのだ.パピヨンは-キリスト教は一神教か-の記事で,ユダヤ教は一種の祖霊信仰ではないかと書いた.こうしてみると,これもあながち的外れではなかったようだ(ほんとかな?).ユダヤ人とは心の奥で遠く祖霊への望郷の念を募らせているのかもしれない.血ではなくて信仰で.

 一神教を維持する民

 人種的な広がりが達せられなかったことは,ユダヤ教自身の性質にも大きな影響を及ぼしている.いくつか分派はあるとはいえ,未だに厳格な一神教を維持できている点である.ユダヤ教だって改宗者を求めるのだ.誰にでも門戸は開かれている.しかし,キリスト教やイスラム教に比べるとその純度は驚異的である.イスラム教も一神教とは言われるが,すでに始祖ムハンマドの神格化がかなりなされているようで,パピヨンは厳然たる一神教とは思えない.
 人種的な広がりがなければ一神教を維持しやすいという理由の説明は容易につく.キリスト教みたいに多くの民族に広がると,そこの土着宗教とどうしても妥協する羽目になる.妥協とは別の神様に変形するということである.逆に,ユダヤ教は頑なに妥協を拒むのであろう.だから広がらなかったともいえよう【注3】.
 もしユダヤ教が多民族に広がった時に,この厳格な一神教を維持できるか,きわめて興味深い.(パピヨン理論を検証したい!)

 反ユダヤ主義と闘う民

 「迫害」の著者は「反ユダヤ主義」を終わらせるためとして次のように書いている.(341ページ)

===============
反ユダヤ主義を終わらせることが目的であれば,ユダヤ教のどんな側面も非ユダヤ人の価値観の脅威とならなくするために,彼らの道徳的価値観に影響を及ぼすよう努める必要がある.もしホロコーストに教訓があるとすれば,ホロコーストの再発を防止するには,ユダヤ人は自分たちの隣人たちの道徳的価値観に影響を及ぼしていく他に道はないということだ.
 それゆえ,ユダヤ人は倫理的な唯一神教を広めようとするユダヤ人本来の役割に再び着手する必要がある.ユダヤ人の役割とは人類にユダヤ教をもたらすことではなく,普遍的な道徳律をもたらすことにある.反ユダヤ主義を終わらせるために反ユダヤ主義の究極の原因であったこの役割を実践する必要があるとは,ユダヤ史の皮肉の極みである.
===============


 ここには場合によってはきわめて危険な芽が含まれている.自分たちの世界のみでひっそりと生きてきたユダヤ教が,キリスト教が犯したように他民族への布教を始めたら大変なことになる.断っておくが,この危険性はユダヤ教本来に含まれている,というのではない.しかし,たとえ平和裡に行われたとしても軋轢があちこちで生じるだろう.(ただ,パピヨンの理論どうりに,多民族に広がった時に一神教を維持できなくなるとすればまた別の歴史となるだろうが・・)
 こうならないためには唯一つ,故なき反ユダヤ主義を改めることだ.そのためには例えば,今回のイスラエルの千年に残る蛮行に対しても,その批判は宗教問題としてではなく,他にもある”ならず者国家”の蛮行に対する批判として批判しなければならない
 世界は反ユダヤではなく,ユダヤとの共存を図らなければならないのだ.ユダヤ人をそのように追い詰めてはならないのだ.そのために,非道はユダヤ教が犯したのではなく,一国家としてのイスラエルが犯したのだ,としなければならない.反ユダヤ主義の立場で批判するのではなく,また,”だから反ユダヤ主義になるのだ”,でもなく,一ならず者国家に対するものとして批判すべきなのである.

 著者らは反ユダヤ主義に対する姿勢に,人間性のモラルを見るという.反ユダヤ主義の容認は反ユダヤ主義者と同じことである.人類の野蛮な本能は,仮にユダヤ人が絶滅したらそれに代わるものを欲するだろう.現に,日本にはユダヤ人が存在しなかったので,その代わり,被差別部落,先住民,人類館事件,など,別の憎悪蔑みの対象を見つけ出したのである.

 最後に

 ユダヤ陰謀論で何事も説明付けられれば社会科学なんて要らない.陰謀暴露学があればいいことだ.そういうもので歴史を今後に生かすことはできない.社会構造の理不尽さに人一倍敏感なはずの左翼であるならば,特にそんなものに拘わりあってはならないのだ.

 ユダヤ人で非ユダヤになろうとする人々が少なからず存在するという.彼らはユダヤ人という特殊性を超えた,一人の人間,人類の一員としてのあり方に価値を見出したいと欲する人々だろう.マルクスもその一人なのかもしれないが,彼の反ユダヤ主義というのも非常に酷かったそうだ.
 何はともあれ,ようやく此処までたどり着いた.記事の書き始めには想像できなかったが,ユダヤ人というものもこの程度には理解できた(気になることができた).長くなったのでいったん此処で終わることにしよう.
 人類としての普遍性とユダヤ人としての特殊性,この葛藤は非常に興味深い.日を改めてまとめることとしたい.何しろまだまだ書けなかったことが山ほどあるのだから!
 
【注1】 キリスト教徒≠キリスト人種,イスラム教徒≠イスラム人種は自明である.むしろ,ユダヤ人∽ムスリム∽クリスチャンの相似則が成り立たないだろうか?

【注2】 創世記25章7節で,『アブラハムは死に,先祖の列に加えられた』とある.だから,祖霊信仰はアダム,いや結局はヤハウェにまで遡るのかもしれない.しかし,ヤハウェは人間すべての祖である.ただ,それを知っているのは『ユダヤ人』だけである.キリスト教徒はこのようには捉えない.

【注3】 キリスト教徒のユダヤ人憎悪は純粋な一神教ではなくなった宗教の劣等感,引け目がないのだろうか? 歴史上の迫害の記録を見ると,少数派にすぎない貧弱なユダヤ教は決して強者であるキリスト教へ同化しようとしない.個々のユダヤ人で同化する人はもちろんいるが,宗教自体は決して妥協・変質しないのである.
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by papillon9999 | 2009-02-16 00:53 | Trackback(6) | Comments(5)
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Commented at 2009-02-19 20:16 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by とほほ at 2009-02-26 13:28 x
宗教によって定義された、というのも間違いです。現実に大戦前などは差別や迫害から逃れるために、また中世ヨーロッパではカトリックからの迫害から逃れるために多くのユダヤ人が棄教しましたが、ユダヤ人という烙印と偏見から逃れることはできませんでしたし、その人々の末裔たちは今でもユダヤ人です。今の時代、ユダヤ人を定義することなどユダヤ人自身でも不可能です。
多くのユダヤ人や、それが善しにつけ悪しきにつけ自分が生まれ育った故郷に同化しようと懸命に努力してきました、ユダヤ民族といういうのは欧米において「出自のよくわからない人」を蔑称したことが始まりです。
トンデモユダヤ論は「アルバイシンの丘」さんといえども、差別偏見を増長する憎むべき言説です。

Commented at 2009-02-26 21:08
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by papillon9999 at 2009-02-26 21:11
『宗教によって定義された、というのも間違いです。』
ああ,そうなんですか?だけど記事本文中に引用した
『ユダヤ人とは,人種によってではなく,宗教によって定義された民族である』
は『ユダヤ人はなぜ迫害されたか』の著者が自ら本の中で明記している文章なんですよ.もちろん,敬虔なユダヤ教徒です.
ですから,私は
『差別偏見を増長する憎むべき言説』
とは全く思えないです.『ユダヤ人』とはユダヤ人自身がアイデンティティを自ら欲する時の拠り所となる概念だと信じています.
ユダヤ教徒でない人をユダヤ人自らユダヤ人と称していることがありますが,これはユダヤ人で有りたくない人にとっては迷惑なことでしょう.
一方でユダヤ人で有りたい人にとっては,記事にも書いたように,アブラハムの子孫ということでユダヤ教徒ではなくなってもユダヤ人と呼びたがっているのでしょう.
ですから,宗教によって定義するというのは安全側の呼び方になります.ユダヤ人で有りたくない人はユダヤ教徒ではなくなっているはずです.
ということは,この定義だとその人はユダヤ人ではないことになり,本望でしょう.安全側とはそういう意味です.
Commented by papillon9999 at 2009-03-01 00:00
とほほさんからTBを戴きました.まことにありがとうございます.とほほさんのポリシーからすると,非常に貴重なことでないかと思っています.
ただ,一つ前に戴いたコメントがパピヨンの想いからすると意外なものでしたので,このTBをどのように解すべきか多少戸惑っています.
私の記事への賛同・エールならば戴いたコメントの修正で嬉しいものであるし,TB記事を読んでさらに反省せよ,というのならそれには未だに同意できません.
従って,今の所こちらからのTBのお返しもできないことをここでお断りしておきます.